このまま壁を突き破って街に繰り出してくれれば、町はパニックになりそうだけど、治安局は出てきてくれるだろうなぁ。
などと他力本願な事を考えていたら、轟音と共に壁に体当たりをした巨大人形が、壁に大きな亀裂を入れつつ、あろう事か壁づたいにその巨体を大きく横へずらして倒れこむ。

そこは、私達の目指していた場所。
二階への階段だった。
「「ああああああああ!!」」
私とフォルテの声が重なる。
一歩遅れて、回復剤を一気飲みしたデュナが「あー……」とため息交じりに吐き出した。

階段は、下半分以上が瓦解していた。
地鳴りと共に、室内がなんとなく斜めになった気がする。
床が、どこかしら陥没してしまったのかも知れない。
これだけドタバタ暴れれば、それも仕方のない事だと思うが……。

「うおわっ」
聞き覚えのある声がかすかに聞こえた。
しかも、頭上から。
フォルテがパッと顔を上げる。
「スカイの声だ!」
なるほど、通りで聞き覚えがあるはずだ。
「ラズー! デュナー! フォルテー! 居るかー!?」
「居るーっ!!」
遠くから聞こえるスカイの声に、フォルテが元気よく返事をする。
「今建物傾いたよな、落ちるかと思ったよ……」
ほんの半日ほど聞いていなかっただけで、スカイの声が懐かしく聞こえた。
空き瓶を乱暴にポケットに突っ込むデュナ。
先程フォルテがこけた事を気にしての行動だろう。
「もう、いつまで寝てたのよ。あんたは肝心な時に役に立たないんだから!」
スカイの声に安心したのか、憎まれ口を叩くデュナの口元にも笑みが戻っていた。

巨大人形に近付く形になってしまうが、三人でそろそろと先程の位置まで戻る。

デュナの肩口には風の精霊が四人ほど待機している。
今のところ、巨大人形は倒れたままの姿で微動だにしていない。
私が開けてしまった大穴の下まで来ると、三階から顔を覗かせているスカイが見えた。
今さらだが、私の光球にスカイやマーキュオリーさん達が巻き込まれる可能性があったのだと思うと、ぞっとする。
「あ、スカイ、その階にマーキュオリーさんがいるはずなんだけど……」
ひょこっとスカイの隣に見た顔が現れる。
マーキュオリーさんの妹、クーウィリーさんだった。
「私も、姉もスカイさんに助けていただきました!」
どうやら、今起きたばかりというわけではないようだ。
三人が無事だったことにホッとする。
「とにかく二人を連れて二階まで下りてきなさい」
デュナの指示にスカイが困った顔をする。

「それがさ、階段周りが崩れかけてるんだよな」
そもそも、この建物自体が既に崩壊の危機だと思う。
「すみません、その、姉は高いところが苦手で……」
つまり、肝心のマーキュオリーさんが渋っていて動けないのか。
どおりで先程から少しも顔を出さないはずだ。

いきなり、巨大人形がこちらにその長い腕を振る。

「え」
倒れたままの姿勢からの急な攻撃に
私は、警戒していたにもかかわらず、対応できなかった。

巨大なその腕は、私達を薙ぎ倒すのに十分な大きさだった。
相当な速さでこちらへ伸びる土で出来た指は、その角度から、私を吹き飛ばす前にフォルテに当たる。

フォルテが潰されるところは、見たくない。
この子を連れて逃げなきゃ。
少しでも遠くへ。

私に考えられたのはそこまでだった。
唯一反応出来たデュナが風の精霊を私達に向けて放つ。
精霊達に押される形で、後方へと吹き飛ばされる。
同じく精霊に飛ばされて、フォルテが私の胸に背中から飛び込んでくる。
次の瞬間には床に叩き付けられるだろう。
フォルテが痛い思いをしないよう、なるべくしっかりその背を抱いた。