その建物は、円柱状で縦に長い、ちょっとした塔のようだった。
階数が三~四階程度でなければ、塔だと言い切れただろう。
白く塗られただけで、何の装飾もない外観。
窓がまばらについている為、何階建てになっているのかいまいちハッキリしない。
「周りに罠は無さそうね、入ってみましょうか」
簡単なトラップが検出できる魔法で、そこいらを調べていたデュナが、くるりと振り返る。
こういう小技が色々できるのは、やはり分子レベルで精霊達と取引ができる人の特権だろう。
デュナ自身は、原子レベルで取引が出来るようになりたいらしく、まだまだだと言っているが、あいまいなイメージでの取引しか出来ない私では、応用といったところでたかが知れている。
「こういう時にスカイがいれば、試しに突入させられるのに。まったく、肝心なところで役に立たないんだから」
デュナが呟いているが、そのスカイを助けに来ている以上、スカイがいないのは当然だった。
「フォルテ、本当にいいの? 怖い目に遭うかも知れないよ?」
ついて行くと言って聞かないフォルテに、もう一度問う。
「うん……。外で、一人で待ってるほうが怖い……」
うーん。こんなことなら、あのコックさんのところにでも預けておく方が良かっただろうか。
いや、人見知りなこの子の事だ、それも嫌がったに違いない……。
朝食後、あの屋敷を出て、回復アイテムを購入して、犯人が指定してきたこの建物に着いたのが十一時前といったところか。
もちろん、デュナの精神力は十分に回復してあった。
回復アイテム代は、後ほどスカイに請求されるのだろう。
ショップでデュナが領収書を書いて貰っていたのをチラと見たが、宛名がスカイだった。
『捕まったスカイが悪い』とデュナに詰め寄られれば、スカイに勝ち目はない気がする。
実際は私達の代わりに囚われてくれたようなものだったが……。
「私にしっかりついて来てね」
ぎゅっと私のマントを握り締め、フォルテが真剣な表情で頷いた。
「ええと、マントじゃなくて、手を繋ごうね」
このままではいざというときに首が絞まりそうな気がして、私は左手を差し伸べる。
フォルテが小さな手を重ねてきた。
柔らかい皮のグローブ越しにその手をそっと握りかえす。
ぎゅっと力強く握り返してきたフォルテの手を引いて、デュナの後、私達はその建物に足を踏み入れた。
暗い室内。
まだ朝だというのに、その窓のないホールは薄暗く、がらんとしている。
開いたままの扉から差し込む光だけが、私達の後ろを照らしていた。
「何階に来いとかは書いてなかったわよね?」
デュナが確認する。
手紙を持っていたのは私だが、確認するまでもなくそういう記述は無かった。
「うん。無かったよ」
こちらを振り返らず、部屋の隅々を見渡そうとしているデュナに返事をする。
「それじゃ、あの階段から上に上がるしかないかしら……」
デュナが指した階段は、部屋の左奥、壁に張り付くように螺旋状に上へと伸びていた。
ホールには他に扉もなく、部屋もありそうに無い。
無駄に広いホールが、建物の規模に合わない気がしてちょっと違和感を感じる。
階段に向かうべく、部屋の中へ踏み出すデュナの足元を、すっと精霊が横切った。
その先にも同じ精霊が床スレスレの位置を飛んでいる。
「デュナ! 待って!!」
精霊達は、何かを待ち望んでいるように見えた。
待機させられている。
ということはつまり何かが仕掛けられているということで……。
私の声にデュナが振り返る、その瞬間、凛とした声がホールに響き渡った。
階数が三~四階程度でなければ、塔だと言い切れただろう。
白く塗られただけで、何の装飾もない外観。
窓がまばらについている為、何階建てになっているのかいまいちハッキリしない。
「周りに罠は無さそうね、入ってみましょうか」
簡単なトラップが検出できる魔法で、そこいらを調べていたデュナが、くるりと振り返る。
こういう小技が色々できるのは、やはり分子レベルで精霊達と取引ができる人の特権だろう。
デュナ自身は、原子レベルで取引が出来るようになりたいらしく、まだまだだと言っているが、あいまいなイメージでの取引しか出来ない私では、応用といったところでたかが知れている。
「こういう時にスカイがいれば、試しに突入させられるのに。まったく、肝心なところで役に立たないんだから」
デュナが呟いているが、そのスカイを助けに来ている以上、スカイがいないのは当然だった。
「フォルテ、本当にいいの? 怖い目に遭うかも知れないよ?」
ついて行くと言って聞かないフォルテに、もう一度問う。
「うん……。外で、一人で待ってるほうが怖い……」
うーん。こんなことなら、あのコックさんのところにでも預けておく方が良かっただろうか。
いや、人見知りなこの子の事だ、それも嫌がったに違いない……。
朝食後、あの屋敷を出て、回復アイテムを購入して、犯人が指定してきたこの建物に着いたのが十一時前といったところか。
もちろん、デュナの精神力は十分に回復してあった。
回復アイテム代は、後ほどスカイに請求されるのだろう。
ショップでデュナが領収書を書いて貰っていたのをチラと見たが、宛名がスカイだった。
『捕まったスカイが悪い』とデュナに詰め寄られれば、スカイに勝ち目はない気がする。
実際は私達の代わりに囚われてくれたようなものだったが……。
「私にしっかりついて来てね」
ぎゅっと私のマントを握り締め、フォルテが真剣な表情で頷いた。
「ええと、マントじゃなくて、手を繋ごうね」
このままではいざというときに首が絞まりそうな気がして、私は左手を差し伸べる。
フォルテが小さな手を重ねてきた。
柔らかい皮のグローブ越しにその手をそっと握りかえす。
ぎゅっと力強く握り返してきたフォルテの手を引いて、デュナの後、私達はその建物に足を踏み入れた。
暗い室内。
まだ朝だというのに、その窓のないホールは薄暗く、がらんとしている。
開いたままの扉から差し込む光だけが、私達の後ろを照らしていた。
「何階に来いとかは書いてなかったわよね?」
デュナが確認する。
手紙を持っていたのは私だが、確認するまでもなくそういう記述は無かった。
「うん。無かったよ」
こちらを振り返らず、部屋の隅々を見渡そうとしているデュナに返事をする。
「それじゃ、あの階段から上に上がるしかないかしら……」
デュナが指した階段は、部屋の左奥、壁に張り付くように螺旋状に上へと伸びていた。
ホールには他に扉もなく、部屋もありそうに無い。
無駄に広いホールが、建物の規模に合わない気がしてちょっと違和感を感じる。
階段に向かうべく、部屋の中へ踏み出すデュナの足元を、すっと精霊が横切った。
その先にも同じ精霊が床スレスレの位置を飛んでいる。
「デュナ! 待って!!」
精霊達は、何かを待ち望んでいるように見えた。
待機させられている。
ということはつまり何かが仕掛けられているということで……。
私の声にデュナが振り返る、その瞬間、凛とした声がホールに響き渡った。