「う゛……う゛う゛う゛……」
唸り声のような呻きとともに、デュナが上半身をゆっくりと起して頭を振った。
「メガネ……」
それがデュナの第一声だった。
顔の少し前に落ちていたらしいメガネを拾って一通り点検すると
「よかった……無事ね……」
両手でそっと、それをかけた。
この状況について、なんと問えばいいんだろう。
ああ、まずは行方不明のリュックのことを……。
「やられたわ」
デュナの低い声。
この声は、そうとう機嫌の悪いときにしか出さない声だ。
気付いた途端、背中を冷たい汗が伝う。
「とにかく、あなた達が無事でよかった。きっとスープだったのね」
ため息をついた後、デュナは私達に、ほんの少し微笑んだ。
……よくわからないが、私達は危機的状況にあったらしい……?
白衣の内ポケットから、ステータスチェックを取り出して、自身を見るデュナ。
あの深緑色をしたカード型のマジックアイテムだ。
傍からは分からないが、デュナの白衣には実に無数の隠しポケットが存在している。
それらは、どれもスカイが縫い足したものだった。デュナに強制されて、だが。
「相当減るとは思ってたけど……残り十七とはね……」
先ほどの大気の精霊が、嬉しそうにデュナの周りをくるくると飛んで消えていった。
お腹が膨れて大満足といった顔だ。
どうやら、デュナは眠る直前から今までずっと結界を張り続けていたようだった。
大気の精霊を側に置き続けるためには、拘束料として、何分毎にいくつ自分の精神力を渡すという契約を成立させなくてはならない。
最大の状態で三百以上はあるデュナの精神力が
十七しか残っていないというのは滅多に無い状況だった。
「十時間も寝かされ続けてたのね」
私の肩越しに時計を見ているデュナ。
寝かされた。という彼女の言葉に、隣でフォルテが首をかしげている。
「薬を飲ませるのは好きだけれど、飲むのは遠慮したいわ」
なんだか理不尽な響きがする言葉だったが、つまるところ、昨日の夕食のスープに、眠り薬が入れられていたと言う事か……。
それを私達が飲まずに済んだのは、スカイのおかげだったわけだが。
では、三人分も飲み干してしまった彼はどうなったのだろう。
「ラズ、回復剤出してくれる? 精神力の」
ベッドに座りなおして背中を曲げ伸ばしているデュナ。
ずっとうつ伏せた状態で、腰にきてしまったのだろうか、痛そうだ。
「それが、荷物が無くなってて……」
「確かに、鞄の中をちまちま探すより、鞄ごと持って行く方が正しいわ」
そこで納得されても困るんだけど……。
「スカイも無くなってる可能性が高いわね」
「え?」
「とにかく下の部屋に行きましょう」
サッとベッドから立ち上がるデュナ。
私とフォルテもつられて立ち上がる。
もう、この部屋には戻ってこないかも知れない。
とりあえず洗濯物を、マントの背にある大きな内ポケットに無理矢理詰め込む。
このポケットもスカイのお手製だった。
三人で長い廊下を進む。
デュナは早足ではあったが、走る事はしなかった。
まあ、デュナの早足について行くために、フォルテは若干小走りになっているが。
急ぐ必要がないというのを、私はこの時どう受け止めたらいいのかわからなかった。
とにかく、出来る限り悪いほうへ考えないようにと心がける。
時折、腰をさすっているデュナに、回復をかけようかと声をかけると、精神力を取っておくように言われる。
今、まともに魔法が使えるのが自分だけなんだと気付いた途端、緊張してきた。
へまをするわけにはいかない。
短いマジックロッドを握る右手に力が入る。
杖は、普段からマントにしまっていたため無事だった。
二階への階段を下りきり、廊下を見渡す。
スカイが寝ているはずの部屋の扉は開け放たれていた。
唸り声のような呻きとともに、デュナが上半身をゆっくりと起して頭を振った。
「メガネ……」
それがデュナの第一声だった。
顔の少し前に落ちていたらしいメガネを拾って一通り点検すると
「よかった……無事ね……」
両手でそっと、それをかけた。
この状況について、なんと問えばいいんだろう。
ああ、まずは行方不明のリュックのことを……。
「やられたわ」
デュナの低い声。
この声は、そうとう機嫌の悪いときにしか出さない声だ。
気付いた途端、背中を冷たい汗が伝う。
「とにかく、あなた達が無事でよかった。きっとスープだったのね」
ため息をついた後、デュナは私達に、ほんの少し微笑んだ。
……よくわからないが、私達は危機的状況にあったらしい……?
白衣の内ポケットから、ステータスチェックを取り出して、自身を見るデュナ。
あの深緑色をしたカード型のマジックアイテムだ。
傍からは分からないが、デュナの白衣には実に無数の隠しポケットが存在している。
それらは、どれもスカイが縫い足したものだった。デュナに強制されて、だが。
「相当減るとは思ってたけど……残り十七とはね……」
先ほどの大気の精霊が、嬉しそうにデュナの周りをくるくると飛んで消えていった。
お腹が膨れて大満足といった顔だ。
どうやら、デュナは眠る直前から今までずっと結界を張り続けていたようだった。
大気の精霊を側に置き続けるためには、拘束料として、何分毎にいくつ自分の精神力を渡すという契約を成立させなくてはならない。
最大の状態で三百以上はあるデュナの精神力が
十七しか残っていないというのは滅多に無い状況だった。
「十時間も寝かされ続けてたのね」
私の肩越しに時計を見ているデュナ。
寝かされた。という彼女の言葉に、隣でフォルテが首をかしげている。
「薬を飲ませるのは好きだけれど、飲むのは遠慮したいわ」
なんだか理不尽な響きがする言葉だったが、つまるところ、昨日の夕食のスープに、眠り薬が入れられていたと言う事か……。
それを私達が飲まずに済んだのは、スカイのおかげだったわけだが。
では、三人分も飲み干してしまった彼はどうなったのだろう。
「ラズ、回復剤出してくれる? 精神力の」
ベッドに座りなおして背中を曲げ伸ばしているデュナ。
ずっとうつ伏せた状態で、腰にきてしまったのだろうか、痛そうだ。
「それが、荷物が無くなってて……」
「確かに、鞄の中をちまちま探すより、鞄ごと持って行く方が正しいわ」
そこで納得されても困るんだけど……。
「スカイも無くなってる可能性が高いわね」
「え?」
「とにかく下の部屋に行きましょう」
サッとベッドから立ち上がるデュナ。
私とフォルテもつられて立ち上がる。
もう、この部屋には戻ってこないかも知れない。
とりあえず洗濯物を、マントの背にある大きな内ポケットに無理矢理詰め込む。
このポケットもスカイのお手製だった。
三人で長い廊下を進む。
デュナは早足ではあったが、走る事はしなかった。
まあ、デュナの早足について行くために、フォルテは若干小走りになっているが。
急ぐ必要がないというのを、私はこの時どう受け止めたらいいのかわからなかった。
とにかく、出来る限り悪いほうへ考えないようにと心がける。
時折、腰をさすっているデュナに、回復をかけようかと声をかけると、精神力を取っておくように言われる。
今、まともに魔法が使えるのが自分だけなんだと気付いた途端、緊張してきた。
へまをするわけにはいかない。
短いマジックロッドを握る右手に力が入る。
杖は、普段からマントにしまっていたため無事だった。
二階への階段を下りきり、廊下を見渡す。
スカイが寝ているはずの部屋の扉は開け放たれていた。