それから、しばらくすると担任の先生がやってきて、卒業式前の話を聞いた。
この先生は、二十代後半の女教師で、茶に染めたショートカットの髪がよく似合い、優しい雰囲気が漂う。
卒業式という今日の日のために赤を基調とした袴を着ていた。
可愛らしい顔だからか、男子生徒からの人気ざすさまじく、バレンタインデーの日に、チョコを作ってほしいと懇願した生徒もいるそうだ。
しかし、先生の人気は男子だけに留まらず、女子からも頼れる恋愛相談者として人気を集めている。
僕らと年が一番近いということもあって、気軽に相談しやすいのだろう。
こう言っているが、僕も先生に数回相談したことがある。
僕の場合、澄春と揉めたとき、もう二度と元の関係に戻れないのではないかという悲しみから、顔色が非常に悪かったらしく、それを心配されて、相談したという形だが。
その他にも、元カノのあの子と別れる際も、先生に相談した。
結果は、あんなことになってしまったが、それでも、元通りになれたから本当によかった。
まぁ、僕も色々とお世話になって、澄春にはその先生のように気軽に相談してほしいという尊敬の意もある先生が話すとなれば耳をよく澄まして聞く。
教壇に立った先生は、まず、全体に一礼してから、
「今日は、卒業ですね。本当に皆でこの日を向かえることが出来て、よかったと思っています」
そう言った。
その言葉にクラスの雰囲気が一瞬にして、変わった。
誰もが、先生の話を聞く体制をとっている。
「この三年間、先生は、皆さんの担任として過ごしてきました。入学当初は、小さくてあどけない表情が印象的だった皆さんが凛々しく、たくましくなっていることに驚きが隠せません」
確かに入学当初は、僕も純粋だった。
きっと、そうだ。
純粋だったから、上を目指そうとしたのだ。
「この三年間、先生は、色々な皆さんを見てきました。ある人は、部活動の大切な試合で敗戦し、悔し涙を流した姿を。ある人は、初恋に囚われ、新しい恋に進めず、現状維持の苦渋の決断をした姿を。ある人は、未知の感情に振り回されて、誰かを傷つけてしまったことに後悔をしている姿を」
部活動のこと以外、自分事のように聞こえてしまうのは、自意識過剰というやつなのだろうか。
「だけど、そんな苦しい思いをしても、立ち上がった姿も見てきました。友人に、仲間に、親に助けられ、次の一歩を踏み出した人を見てきました。さて、ここで先生から質問があります」
僕は、確かに澄春に救われた。
彼が居なかったら、僕は今頃どうなっていたのだろうか。
後悔にうちひしがれて、今よりもっとひねくれた性格をしているかもしれない。
「──あなたの一番の思い出はなんですか?」
一番の思い出。
心の中にあるなにかは、口にだしてほしいと言わんばかりに、渦を巻く。
僕は、こう聞かれたとき、なにを言えばいいのだろうか。
「皆さんの目を見れば、その答えが分かります。もう一度、言います。あなたの一番の思い出はなんですか? この三年間、本当に素敵な時間をありがとう。先生は、皆さんの担任で本当によかったです」
先生は、瞳を涙で潤ませて、そう言った。
どこからか、鼻を啜る音が聞こえて、まだ早いよと女子の話し声も聞こえた。
それから、僕らは、体育館に向かった。
この先生は、二十代後半の女教師で、茶に染めたショートカットの髪がよく似合い、優しい雰囲気が漂う。
卒業式という今日の日のために赤を基調とした袴を着ていた。
可愛らしい顔だからか、男子生徒からの人気ざすさまじく、バレンタインデーの日に、チョコを作ってほしいと懇願した生徒もいるそうだ。
しかし、先生の人気は男子だけに留まらず、女子からも頼れる恋愛相談者として人気を集めている。
僕らと年が一番近いということもあって、気軽に相談しやすいのだろう。
こう言っているが、僕も先生に数回相談したことがある。
僕の場合、澄春と揉めたとき、もう二度と元の関係に戻れないのではないかという悲しみから、顔色が非常に悪かったらしく、それを心配されて、相談したという形だが。
その他にも、元カノのあの子と別れる際も、先生に相談した。
結果は、あんなことになってしまったが、それでも、元通りになれたから本当によかった。
まぁ、僕も色々とお世話になって、澄春にはその先生のように気軽に相談してほしいという尊敬の意もある先生が話すとなれば耳をよく澄まして聞く。
教壇に立った先生は、まず、全体に一礼してから、
「今日は、卒業ですね。本当に皆でこの日を向かえることが出来て、よかったと思っています」
そう言った。
その言葉にクラスの雰囲気が一瞬にして、変わった。
誰もが、先生の話を聞く体制をとっている。
「この三年間、先生は、皆さんの担任として過ごしてきました。入学当初は、小さくてあどけない表情が印象的だった皆さんが凛々しく、たくましくなっていることに驚きが隠せません」
確かに入学当初は、僕も純粋だった。
きっと、そうだ。
純粋だったから、上を目指そうとしたのだ。
「この三年間、先生は、色々な皆さんを見てきました。ある人は、部活動の大切な試合で敗戦し、悔し涙を流した姿を。ある人は、初恋に囚われ、新しい恋に進めず、現状維持の苦渋の決断をした姿を。ある人は、未知の感情に振り回されて、誰かを傷つけてしまったことに後悔をしている姿を」
部活動のこと以外、自分事のように聞こえてしまうのは、自意識過剰というやつなのだろうか。
「だけど、そんな苦しい思いをしても、立ち上がった姿も見てきました。友人に、仲間に、親に助けられ、次の一歩を踏み出した人を見てきました。さて、ここで先生から質問があります」
僕は、確かに澄春に救われた。
彼が居なかったら、僕は今頃どうなっていたのだろうか。
後悔にうちひしがれて、今よりもっとひねくれた性格をしているかもしれない。
「──あなたの一番の思い出はなんですか?」
一番の思い出。
心の中にあるなにかは、口にだしてほしいと言わんばかりに、渦を巻く。
僕は、こう聞かれたとき、なにを言えばいいのだろうか。
「皆さんの目を見れば、その答えが分かります。もう一度、言います。あなたの一番の思い出はなんですか? この三年間、本当に素敵な時間をありがとう。先生は、皆さんの担任で本当によかったです」
先生は、瞳を涙で潤ませて、そう言った。
どこからか、鼻を啜る音が聞こえて、まだ早いよと女子の話し声も聞こえた。
それから、僕らは、体育館に向かった。