それから、僕らは解散となり、俊也なんかは、部員を集めようと一年生に話しかけている。
僕と楓花は、澄春と波葵を探す。
彼らはすぐに見つかった。
僕が呼ぶ前に、澄春がこちらに気がつき、手を振った。
「ユウ君! おはようございます! いやー、これから俺のアオハルが始まりますよー!」
澄春は、今まで見たなかで一番笑顔だった。
その横には、波葵が居て、二人で写真を撮っていたのかと気がつく。
「お久しぶりです。ゆ……冬山先輩、秋枝先輩……」
相変わらず、そっけなく話す波葵。
それにしても、
「あれ? 楓花と波葵って知り合い?」
「うんうん。中学校卒業する前から仲良くてさ。今は可愛い後輩ちゃんだよー! 入試の問題とか教えたし。ねー、海帆ちゃん!」
「です。秋枝先輩は、冬山先輩と違って教え方が上手でしたので難しい問題もすらすら解けました。あの時はありがとうございました。おかげさまで奨学金ゲットです」
「おおー! よかったぁ」
楓花は、その言葉にニッコリと微笑み、そしてスマホをこちらに向けて、
「皆で写真撮ろっか」
白い歯を見せて、そう言った。
『入学おめでとう』と書かれた看板と校門を背に、僕らは写真を撮る。
「……ぶふっ! 柚宇写真写り悪くない? 顔色悪く見える」
「それ、卒業式のときにも澄春に言われたよ」
「あー、そんなことありましたね! 懐かしい! あ、ユウ君、そういや朝のライン見ました?」
「見たよ。楓花が奢ってくれるって」
「まじすか‼ 秋枝先輩、あざっす!」
「柚宇も払ってよ!?」
楓花がプンプンと怒りながら、僕をガタガタと揺する。
たぶんこの調子だと波葵が来ないだろう。だから、僕は、
「波葵も……来る?」
僕は、初めて彼女を誘った。
きっと断られるに違いない。
友達が居るとはいえ、誰が元カレと食事に行きたいんだ。
それも、最悪な別れ方をした男と。
昔の僕なら、そう思っていた。
けど、今は違う。
確かに、最悪な別れをしたのは、間違いない。
けど、僕らはあの日、恋を知らなかった。
想像の恋愛だけを知っていた僕らは、実際の恋にちゃんと向き合うことをしなかった。
だから、あんな別れになった。
「……柚宇先輩が行くなら行きます。一人でいるより、皆でいる方が楽しいので」
波葵はそう言って、僕の隣に立つ。
まるで、付き合っていた頃のように。
そして、僕らは高校からでた。
「そういえば、柚宇。この前言っていたこと覚えている?」
それは澄春たちが卒業式のときに彼女は、僕にこんな言葉をかけてくれた。
──卒業が別れなんかじゃないよ。
確かにそうだと思う。
今こうして後輩である澄春と元カノである波葵と歩けているのが証拠だ。
だから、卒業が別れなんかじゃないことを僕ら、もう知っている。
新たな日常に向かって、僕らは今、歩き出した。
《完》