僕らが、高校の正門を通り、そのまま並んで階段を登る頃には、新入生が続々と笑顔で廊下を並んでいた。
「なつかしー。私たちも去年はここ並んでたんだよねー」
「だね。ここからじゃ、澄春たちは流石に見えないか」
「まぁ、入学式終わってからにしようよ。しかし、桜川君もいい先輩持ってるなぁ。柚宇優しすぎでしょ」
「そう?」
僕がキョトンと首を傾げると、楓花は、自覚ないんだとケラケラと笑った。
教室まで行き、ドアを開けると、数名のクラスメイトがもうすでに居た。
読書をしている子や、スマホでゲームをしている子、友達と談笑している子などやっていることは様々だ。
「おっ! 冬山! 秋枝! おはよう!」
僕らに笑顔で挨拶をしてきたテンパの男子は、人懐っこい笑顔を見せてこちらに寄ってきた。
「おはよう、俊也。普段よりテンション高くない?」
天川俊也。
僕の友人だ。
彼は、持ち前の明るさとコミュニケーション能力でよく遊びに誘ってくれる。
「そりゃあ、後輩が出来るからな! やっと先輩たちにこき使われなくて済むし。まぁ、俺は後輩には優しくするけどな!」
俊也は、サッカー部に所属していて、僕をよく勧誘する。
丁寧にお断りしているが、運動をするのも、悪くないかもしれない、そう最近は思っている。
それから、僕は六人くらいのグループで固まって話す。
最近のスマホゲームの話や映画の話。
よく分からない話題もあるけれど、それでも楽しい。
僕が中学の頃、望んでいた中学校デビューとはまさしくこのことだった。
それが、高校になって出来たのだ。
「そういえばさ、さっき廊下ですれ違った新入生の子ですごく可愛い男子がいてさー。その子、後輩にしたいわー」
一人の女子の話に知りすぎている顔が浮かぶ。
なるほど、澄春か。
もしかしたら、学校のアイドルになりそう。
僕らの尽きない会話はチャイムによって一時中断となった。
新しい担任の先生が入ってきて、挨拶をする。
「えー、新しく担任となった、聖輝雪だ。誕生日は12月25日。担当科目は科学基礎。一年間、よろしくな。ちなみに、子供の頃から誕生日とクリスマスプレゼントをセットにされる。皆は別々にくれよ?」
先生の話で笑いが起こる。
確かに行事が誕生日だとセットにされやすい。
先生から入学式へのいくつかの説明を受けてからすぐに大講堂へと向かった。
そこには、すでに、沢山の保護者と一年生や三年生が集まっていて、僕ら二年生が長椅子に座れば、入学式が始まる。
すぐに椅子に座ったあと、入学式が始まった。
校長の長い話や、来賓の方々の話を終えたあと、新入生代表の挨拶として、波葵が演台に立つ。
卒業式のときも思ったけど、やっぱり、真面目で人情深いからこうして信頼されるんだなと感心した。
卒業式と変わらない波葵の優しくて人々を魅了させる声が大講堂に響き渡る。
『桜が舞う季節のなか、私たちは今日、春咲高等学校の門をくぐりました。真新しい制服に身を包み、期待と不安を胸いっぱいに抱え、こうして上級生の皆さんとお会いできたことを大変嬉しく思います』
いつ聞いても、耳に馴染む声。
この声に僕は無くなっていたはずのときめきがまた心に芽生える。
そして、波葵は、
『この三年間で大切な仲間たちと夢や目標を見つけ、それに向かって走っていきます。本日は、こんな素敵な式をあげていただき、誠にありがとうございました』
そう言うと、演台から降りていった。
そして、入学式は無事、終了した。