ずっと、大好きだった。

 きっと、誰にも負けないくらいあなたのことが大好きだった。

 過去形なんかじゃなくて、今も。

 言いたいことは心のなかにずっとあるのに、言えない。

 思ったことじゃなくて、違うことが口からでてしまう。

 あれから、柚宇(ゆう)君と別れたあと、私は、体育館裏で泣いていた。

「ゆ……ぅ、くん……」

 こんなところで泣いていても意味がないのに。

 それでも、泣いてしまう。

「どうしたの」

 誰かの声が聞こえて、私は顔をあげてしまう。

 そこにいたのは、柚宇君と写真を撮っていた女の人だった。

 心配そうに私を見ている。

「どうしたの?」

 彼女は、私と同じ目線でニコリと微笑みかけてきた。

 こんな素敵な笑顔の人なら、柚宇君の隣にいるのは納得だと思った。

「……好きな人が卒業しちゃって」

 年上には基本的に私は敬語のはずなのに、なぜかタメ語で話してしまう。

「そっか。苦しいよね」

 彼女は分かっていない。

 苦しいだけじゃない。他にも伝えたいことがたくさんあるのに、私はそれを言えなかった。

「じゃあ、その人のことを追っかけちゃえ」

「え?」

 私は言葉の意味が分からず、間抜けな声を出してしまった。

「その人はもう、卒業しちゃったんでしょ? だったら、もう一度同じ時間を過ごせるように追っかけたらいいんだよ」

 あとね、彼女はそう言葉を繋げて、

「卒業が別れなんかじゃない。これ、私が好きな歌の歌詞なんだけど、本当にそうだと思うんだ。卒業したって別に話せなくなるわけじゃない。その人と話すきっかけを作ってしまえばいい。そう思っているよ」

 だからね、彼女はまた言葉を繋げて、

海帆(みほ)ちゃん。諦めないで」

 諦めない。

 簡単なことだった。

 私には、勇気がなかった。

 卒業してしまえば、それで終わりだと思っていたから。

 本当は、終わりなんかじゃないのに勝手に終わらせていた。

「……ありがとうございます」

「うんうん。ちょっとでも不安を取り除けたらよかったよ」

 彼女は、快活に笑って、私の頭を撫でる。

「それじゃあ、私はこれで。受験を頑張れ。そして、春咲(はるさき)高校で共に過ごせることを祈っているよ」

 彼女に全部知られていたことにビックリしたが、私はひとつ聞き忘れていたことがあった。

「あの……!」

「ん? どうしたの?」

 彼女は走ろうとしていた足を止めてこちらを振り向く。

 (えり)元まで切った髪が優しく揺れた。

「お名前教えてください……」

「なぁんだ。そんなことか。私の名前はね」

 ──秋枝(あきえだ)楓花(ふうか)だよ、そう言って、笑いながら、去っていった。

 秋枝先輩。

 すごくかっこいい人だった。

 いつの間にか涙は流れていないことに気がつく。

 秋枝先輩に勇気付けられたからかもしれない。

「……絶対に合格しよう」


 卒業が別れなんかじゃない。


 秋枝先輩に大切なことを教えて貰った。

 来年、それに感謝の気持ちを伝えるために。

 そして、今度こそ、柚宇君と結ばれるために。

 私は、新たな気持ちで決意の一歩を踏み出した。


 これは、先輩たちの卒業から始まる希望の物語。

 私たちの決意の物語。