卒業式が、終わり、俺たちは、花道を作るために、運動場に集まっていた。
「桜川君」
後ろを振り向かなくても、声で分かる。
俺が、ずっとずっと好きな人だ。
「どうしたの? 波葵」
彼女の方を振り返ると、少しだけ口角をあげて、こう言った。
「送辞、お疲れさま」
彼女は、それだけだからと言い、帰ろうとするが、
「待って!」
俺は、呼び止めた。
「なに」
「あの……さ。俺、春咲高校受けるんだ。ゆ……冬山先輩が合格したところなんだけど。一緒に、よかったら受験しない……?」
卒業を考えると、彼女と離ればなれになるのが、怖くなった。
この想いを伝えられないまま、別れるなんて嫌だ。
だから、告白は出来ないけど、悪あがきとして遠回しに想いを伝えてみた。
「……考えておくわ。あの学校、奨学金がすごいらしいからそれ目当てに入学するのはありかもしれないわね」
淡々とそう言って、波葵は人混みに紛れていく。
好きだ。
俺は、波葵が大好きだ。
この想いは決して消えることのない片想い。
大切に持っておこう。
そうして、いつの間にか、卒業生が花道をくぐっていた。
皆、晴れやかな顔をしていて、来年は俺たちもこんな顔をするのだろうか。
そして、自由時間となり、俺はユウ君と写真を撮るために彼を探していた。
案の定、一人でいたユウ君と写真を撮ってから、正門をくぐる。
ユウ君、写真写り悪いなぁ……。顔はいいから高校では彼女出来るといいなぁ。
ユウ君が、この学校に来ることはきっと、ない。
帰り道、俺はユウ君と話ながら、歩いていた。
「澄春、卒業だね」
ユウ君が口を開く。
その眼には確かに未来への希望が灯っていた。
「卒業っすね……。お疲れさまでした!」
──俺には憧れの先輩がいる。
いつでも眠そうで、ボーッとしていて、気力がなくて、何事にも無関心な人だけど、仲良くなった人にはそれなりに関わりをもってくれる。
嘘には敏感で、隠している不安さえも、お見通しだった。
友達が後輩しかいなくて、恋愛初心者で拗らせ過去すがり野郎なその人は、俺の憧れの人。
そして、最高の友人。
──憧れの先輩と片想い。
あなたは、どちらかを選ばなければいけないとき、どちらを大切にしますか?