ユウ君と出会ったのは、中学一年生のときだった。
その日、たまたま塾で見たユウ君に俺は話しかけたのだ。
「あの、同じ学校の先輩ですよね?」
「あ、はい、そうですけど……」
あの頃のユウ君はいつも敬語だった。
俺のことを先輩だと思っていたらしく、それを知ったときは一日中腹をかかえて笑った。
塾が同じと知り、そして、ユウ君は暗いから送ると優しさを見せてくれた。
そこで、俺とユウ君は、家が近所だと気がつく。
そこからは、もう毎日が楽しかった。
ユウ君は、遅刻常習犯気味の俺を起こしに来てくれて、一緒に登校したり、塾も基本、一緒に帰るようになった。
帰りに、たまにジュースを奢ってくれたのがすげぇ嬉しかった。
そんな生活にも慣れてきた夏休み中盤。
俺たちの仲を一時的に引き裂いた出来事が起きる。
俺には、当時、好きな人がいた。
同じクラスの波葵海帆という物静かで、クールな女子が好きだった。
しかし、俺は持ち前の明るさで波葵にアプローチを仕掛けるが、彼女は振り向かない。
俺のアプローチが勢いを増すほど、彼女はユウ君の方に向かってしまう。
これは、ユウ君から聞いた話だが、小学校の頃から塾に通っていたという波葵を体調不良の際に看病して以来、好意を抱かれてしまったらしい。
そして、ついに波葵はユウ君に告白した。
ユウ君と波葵は、付き合ってしまった。
俺は、その悲しみもあってか、ユウ君との距離を置いた。
悲しくて、悔しくて、別れてほしいと思った。
俺の想いが通じたのか、彼らは一ヶ月後に別れた。
しかし、その理由が最悪だった。
ユウ君は、波葵のことなんて好きじゃなかった。
それを聞いて、彼女という存在が欲しかっただけなんだ。そう勝手に解釈した。
この人の適当なところが俺は嫌いじゃなかった。
マイペースなところが自分をいつでも貫くことが出来ていてカッコいいとさえ感じた。
でも、この日だけは許せなかった。
ここからは、感情が体を勝手に動かした。
気がつけば、俺は雨の中でも関わらず、ユウ君の家に行っていて、胸ぐらを掴んで、
「本当に、好きになってから、付き合えよ!」
そう言っていた。
我を忘れていたから、覚えていないけど、ユウ君に他にも酷いことを言ったかもしれない。
そうでなきゃ、俺たちが10日間、塾でも、学校ですれ違ったときも、一言も喋らないことなんてないはずだし、ユウ君が朝、起こしに来ないこともないはずだから。
ある日、俺はこの状態に耐えきれなくなって、ユウ君と話をした。
ユウ君は、終始、謝ってきたけど、俺は謝罪の言葉より、聞きたかったことを聞けた。
結局、俺の勘違いから生まれたこのケンカはたぶん、なにがあっても忘れないだろう。
そして、盲目になっていた自分を恥じた。
そして、俺たちは、仲直りが出来た。
あの日から、関係はあまり変わらなかったが、友情が芽生えた気がする。
そんなユウ君と一緒に居れる時間も、もう残りわずかなんだと、過去を思い出しながら、友達グループと会話をしていた。
俺はスクールカーストの上の方にいる。
こんな人懐っこい性格だから、嫌味じゃないが、女子からモテるわモテるわで、バレンタインチョコをひとつも貰っていないユウ君を本気で心配したことがある。
マジでなんであの人がモテないのか一番の謎だ。
まぁ、どれだけチョコを貰おうと、告白されようと俺は断り続けてきた。
今も本命である波葵から、チョコを貰っていないし、告白もされてないし、負けた気になるからこっちからしたくない。
だが、そんな波葵はユウ君のことが好き。
俺には、振り向かない。
そんな三角関係も今日で終わると思えば、心はスッキリするはずなのに、全然晴れない。
今も、クールな顔で微笑を振りまいている彼女に俺は見とれてしまっている。
俺は、この恋を自分のものにする。
ユウ君に負けないほどの人間になってやる。
卒業式の三十分前、心のなかでそう宣言してやった。