学校まであともう少しというところで、俺はあることを思い出した。
「ユウ君、そういや、春咲高校の合格、おめでとうございます」
ユウ君は、春咲高校という進学校に入学する。
そこは、特待制度に力を入れており、入試で高得点をとった者には多額の奨学金が渡されるとか。
「ありがとう。澄春に教えてもらった所も出たから助かったよ」
ユウ君は、礼を言ったあと、嬉しそうに前を向いた。
俺たちは、お互いに分からないところを教えあっていた。
俺は、自慢じゃないけど、中学二年生としては頭がいい方なので、発展問題を解くことが多い。
ユウ君が受験した高校の過去問には、発展問題が出題された傾向が多かったので、よく俺に聞いていた。
「それは、よかったです! ユウ君、来年はよろしくお願いしますね!」
あと半月もすれば、中学三年生になる。
進路の土台もそろそろ固めなければいけないので、こう言うときに頼りになる先輩は、多くいた方がいい。
「僕、澄春より賢くないけど?」
ユウ君は、苦笑しながら、そう言うが、春咲高校を合格できるレベルだから、かなり賢いと言ってもいいが、それをしないのがユウ君のいいところ。性格も顔もイケメンだ。ただし、必ずモテるとは限らないのが現実。
「いいっす! ユウ君も俺も分からないところがあっても、先生に教えてもらったらいいので! あと、一人でやるより、仲間がいた方が気持ちが楽じゃないっすか? ほら、受験って最終的には気持ちが大事とか言うので!」
そんな先輩に人付き合いの大切さを遠回しに教える。
この人、俺以外に友達居ないからなぁ。
まぁ、俺が受験に行き詰まったらアドバイスのひとつやふたつくらいくれることを願おう。
「先輩、卒業ですね」
この人が卒業してしまう。
そう思うと、少し悲しくなる。
利用してた訳じゃないが、俺はこの人といることで、あの子に振り向いてもらえると思っていた。
「卒業だね」
ユウ君が、そう言って、ゆっくりと正門をくぐる。
彼が、朝、この門をくぐることはもう、ない。