やはり時代的には機械や輸送機が発明される以前の近世のヨーロッパを連想すればいいようだなと洋観は認識した。

 精錬技術はすでに確立しているようで、包丁やナイフを作る鍛冶屋もあって、市場でも彼らの作った刃物を販売しているとのことだ。

 農機具や森林の伐採道具などを作る手工業的な小さな工場がある程度で、科学という概念のまだ住民たちには根付いていない。

「村で唯一の医者だとはいえ、大抵の病気はヒーリング魔法を取得した魔法医薬士によって治癒できる。よほどの事態でも起きない限り、この診療所は開店休業状態なんだ。診察する機会も殆どなく、健康診断に訪れる村人も毎年数十人程度しか集まらない」

 進んだ技術や魔法によって進歩的な世界が築かれている世界だが、反面、洋観のいた世界では当たり前のサービスやシステムが立ち遅れていることも事実だった。

 国家という概念は存在しており、この村――ちなみに村の名前はウッド・ストーン村という。適当に取ってつけた感がありありで、なんだかな~といったところだが……。

「ウッド・ストーン村から100キロほど北へ向かったところにこの国の都があって、そこには国王の居城もある。国の名はマキアート王国で、都の名はコナという。多くの人々が住んでいて、街は毎日が祭りのようで大いに賑わっている。近いうちに君等も訪れるといい。とはいえ、王都までは、馬車でも丸一日以上は優にかかるから、そう簡単には無理か……」

 この世界にはいくつかの国家があって、国境を接している地域では些細ないざこさや小競り合いが起こることもあるそうだが、大きな戦に発展することは過去に一度もないのだとか。
 さらにトモカは、地図を広げてこの世界の成り立ちから、この世界を構成する国々やその力関係などを掻い摘んで教えてくれた。

 国土の広さは、概ね佐渡ヶ島くらいだと検討をつけた。

「マキアート王国は大陸の南側にあって、更にその南には国境を接してモカ公国という国がある、両国の関係はいたって良好だ」

 海は無いのか、と洋観が質問すると、トモカは「海? はじめて聞く言葉だ。それはどういったモノなのだ」と首を傾げるだけで、海の存在自体知らないそうだった。
 しかし、洋観はそんなはずは無いと確信していた。だって、この世界に転生してくる前に口にした言葉の中に『地中海』ってのがあったじゃないか。