人間関係に置いて、波風はあまり立てなくない。もちろん、人に嫌われたくないという根っからの理由が関係していることもあるけれど。
 高岡は、俺の返事がどれだけ淡泊だろうが嫌な顔一つしない。それを受け入れて話を進めていくタイプだというのを、昨日今日で知った。だからこそ、名前を書くぐらいならと引き受けられたのかもしれない。それぐらいなら、と。
「あ、全然関係ねえけど」
 ふとしたタイミングで話題が変わる。高岡が持ち出したのは、またしても俺の病気のことだった。
「しきそなんとか症ってさ、太陽に弱いってことぐらいなん? なんかその、症状つーか、リスクつーか」
「興味あんの?」
「んーまあそんなとこ? 呉野みたいな奴、俺初めて見たからさ、話したいって思ってたんだよ。だって太陽から逃げなきゃいけないってまあまあ無理くね?」
 話したいのか、知りたいのか。俺に興味というよりは、病気が気になるといったニュアンスに聞こえなくもないが、そこは触れないでおくことにする。
「まあ、症状って言えば、神経障害とか」
「シンケイショウガイ?」
「……簡単に言えば聴力とか知能とか、そういうやつ。そういうのは、比較的若い時に発症した人がなりやすいって報告されてるらしいし、大人に近付くと摂食障害を起こすこともあって、あとは――」
 そこから、ぷつんと消える。――そこまで言う必要は、きっとない。
「え、まじか、なかなかハードな危険がくっついてくんじゃん。全然、皮膚だけの話じゃなくね」
 高岡は、変に区切られた俺の話に不信感を抱くことなくペラペラと喋る。
「ないね」
「はあ、びっくりだ、おったまげだ」
 余程ショッキングな話だったのか、珍しく心底驚いたような顔を見せる。高岡もこんな顔が出来たのかと、逆に驚きを覚えてしまう。
 蝉がわんわん鳴く中で、ホイッスルの音が混じって聞こえる。授業が終わるまでは、まだ半分も残っていることを、校舎の壁の時計で確認する。
「いや、なんか想像以上だったわ。でも、なんでお前一人貫いてんの?」
「……別に貫いてるわけでもないけど」
「でも、近寄りがたいオーラ出してるつーか、あれわざとだろ?」
 意外とそういうものは見破れるんだなと関心した。空気が読めない男で、デリカシーの欠片もないと思っていたが、案外そうでもないらしい。よくよく考えれば、盛り上げ役っていうのは一番その場の空気を読んで行動しているのかもしれない。