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 一ヶ月後。星見の丘と呼ばれる祭壇にギョンボーレ族が集まっていた。今日は年に四回この都で行われる「星見の夜」だ。夜空に輝く星々を、歴史上の神や英雄になぞらえて物語を紡ぐ祭り。論文の執筆のために図書館の一室を借り、そこに籠もりっきりのハンシイも、今夜は街に降りてきた。
 今回の星見の夜では数十年ぶりに新たな物語を追加することになっていた。今の時代の物語となると、八賢者を扱わないわけにはいかない。そのため、ハンシイは自分の研究メモをフェントに提供していた。 

「姫様!」
「シホ、お久しぶりです」

 王都に戻っていたシホも、今日は来賓としてこのギョンボーレの都を再訪している。

「執筆は順調ですか?」
「ええ、おかげさまで……と言いたいところですが、難航しています」
「そうでしたか。ですが、賢者アマネはいま学院を留守にしております。彼女は、しばらく戻れないから執筆はゆっくりやって欲しいと仰っていましたよ」
「え、ということは今日も来ないのですか?」

 ハンシイはきょろきょろと周囲を見回した。確かに、来賓席にも群衆たちの中にも賢者の姿は一人も見当たらない。

「全員で西の大陸に行ったそうです。例の遺跡の調査だとか」
「まぁ。それでは学院は?」
「しばらく休講にすると。それほどの大発見だったのでしょう」
「かもしれませんね。それに……」

 もしかしたら恥ずかしかったのかも知れない、とハンシイは思った。王都や学院にいたら、この祭りに招待されることは間違いない。自分たちの功績を称える星物語を見たくなかったのだろう。彼らの事跡を追っているハンシイには、なんとなくそれがわかった。

「聖神ティガリス 空の神エナウリ 夜の神ウィー 闇夜を司る三柱の神よ。我が供物の聖石を持って 今宵我らに道を示し給え」

 儀式が始まった。丘の上の祭壇でフェントが祝詞を上げている。

「人の道のりは我が道のり 昨日の道標は明日の道標 我は今を生きる者 その道は昔日を生きたものに倣わん」

 祭壇に供えられた聖石から光が立ち昇る。それは星空いっぱいに広がり、その中に像が映し出される。若者が突如、この世界の放り出される姿。そして槍を持つ二人の男と出会う姿。

お前は誰だ(ラータ トゥキトマ ヤ)?』

 星物語は映像だけで音はない。けれどハンシイは胸の中で、若者が門番に投げかけられた最初の言葉を思い描いていた。

-完-