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「オクト軍は俺の〈植物魔法〉に気づいてるだろう。けどクルシュを知らない奴らは、俺が西の大陸にいると思っている。そこで、こんなものが出てきたらどうなるか?」

 言いながらアキラ兄さんは地面に向かってスキルを発動させた。あらかじめ等間隔に並べていた種が発芽し、太い幹と枝を伸ばし、瞬く間に強固な防壁を作り上げる。オクト軍六万の目の前でヘンタルの丘は強固な要塞へと変貌した。

「そういうことか!」
「勝てるぞ俺たち!」
「パクランチョ将軍の再来だ!」

 味方の中からそんな声が聞こえ始めた。名前しか知らされていない「パクランチョ作戦」の全容が、たった今明らかになったのだ。

 「サンドイッチ作戦」という言葉だけは、間者を通してオクトに伝わるはず、とオレ達は予測した。連中はパクランチョ将軍の故事を知らない。そもそも転生者には〈自動翻訳〉によって「サンドイッチ作戦」としか聞こえない。
 普段からこの世界の人々を見下し、自分たちこそが支配階級だと慢心していた奴らは、この言葉を聞いてどう考えたか? 単純な挟撃作戦と思ったに違いない。実際、敵の布陣は俺たちの挟み撃ちを恐れ、逆に隊を分散してこちらを挟撃・包囲する形になった。
 一方、突如現れた野戦陣地を見て「パクランチョ作戦」が挟撃戦法だと思う者は、この世界の住人にはいない。大賢者連合の将兵1万は、いや敵の正規兵6万も、これが伝承にある第4次ヘンタルの戦いの再現だと気づくだろう。

「全軍、攻撃開始!」

 オレは号令をかける。3段構えの陣地にはそれぞれ術師隊を配備している。直前に狼狽えて投影を求めてきたあの部隊長も、今では自分の役割を心得ていた。敵陣の狙い目に向かって魔法が放たれ、次々と火柱や雷鳴が巻き起こる。
 包囲網に次々と穴が開き始めた。頃合いを見て、シホ隊が飛び出し、その穴を修復不可能なものにする。そうすれば勝利だ!

「連中がもう一つのブラフに気づいたら、ヤバいけどな……」
「大丈夫。気づいてたらとっくにアレを使っているはず……!」