*  *  *

『なあ、皆"サンドイッチ作戦"って聞いたら、どんな作戦想像する?』

 それに気がついたのはオレだった。ギーブに拠点を移す前。ガズトの村でアニーラの作ったサンドイッチ(パクランチョ)を眺めながら、オレは皆に日本語で質問した。

『どうした急に?』
『いいからさ、誰が答えて』
『んー、やっぱ挟み撃ち的な作戦じゃないですか?』

 口をもぐつかせながらアツシが言った。具材を挟んだ食べ物。その名がついた作戦。オレ達の世界にいた人間ならそう思うのが自然なはずだ。

『じゃあ、"パクランチョ作戦"だったら?』

 今度はこの世界の言葉で尋ねた。途端に、全ての賢者たちのパクランチョをつまむ手が、パクランチョを咀嚼する口が、動きを止めた。

『これ作戦に使えないかな?』

 「パクランチョ」という言葉には、この世界ではふたつの意味がある。ひとつは、パン(ハグハ)に具材を挟んだ料理、つまりサンドイッチだ。そしてもう一つが人名である。
 パクランチョ家は代々軍人の家系で、歴史に名を残す将軍を二人輩出している。一人は英雄イドワに付き従い、魔王サードルを討伐したベレラ・パクランチョ。異世界版サンドイッチは、彼が作った陣中食が発祥とされている。
 そしてもう一人が、ノブナーグ王の腹心として活躍したクラル・パクランチョ。彼はこのヘンタルの丘で史上初の術師隊戦術を用い、劇的な勝利を収めた。
 攻撃魔法に特化した部隊を組織し、丘の中腹に築いた柵まで敵をひきつけ、一網打尽にするという戦術。この術士隊を率いていたのが、パクランチョ将軍なのだ。
 兵力で上回る魔王軍は丘を取り囲んでいたが、柵に近づくたびに集中攻撃で殲滅させられ、次第に劣勢に追い込まれていった。そして攻めあぐねた魔王軍が撤退を始めると、将軍は苛烈な追撃戦を展開し歴史的大勝を収めた。