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『まともにやって勝つのは無理ゲー。敵にはこちらの思う通りに動いてもらうしか無いっしょ』

 それがシランの立てた基本戦略だ。図書館にこもりきりだったオレたち賢者は、戦争をする能力に関してはほぼゼロ。それで仮にも百戦錬磨で魔王軍すら倒したオクト軍を倒すためには、その道しかなかった。それを可能にしたのはやはり、クルシュと糸電話だ。

『近々、アキラ兄さんやマコトさんのところに、討伐軍が向かうようです』
『うんうん、100パー罠だね』

 王都に潜伏しているハルマからの連絡に、シランは答えた。

『注意を北と西に向けといて、本命はウチらの本隊。ついでに、先に出た討伐軍もどこかでUターンして決戦に参加。合戦あるあるだよ』
『あー、俺も元の世界の歴史でそういう話聞いたことあります』
『だしょー? そんじゃアマネっちに代わって~!』

 同じく王都で情報収集にあたっていたアマネに、シランは指示を出した。出立前の討伐軍の兵舎に〈足跡顕化〉をかけたのだ。

 これで北と西の大陸に向かった討伐軍の進路は手に取るようにわかった。彼女が念じれば対象者の足跡が発光する。これで彼らがいつ引き返しても対応できる。しかし敵軍の位置を把握する恩恵は、それだけではなかった。

『光っている場所に敵の伏兵がいる。殺す必要はない、じわじわと攻めて士気を下げてやれ!』

 討伐軍の行路を把握したギョンボーレ隊のクルシュが、夜の空を駆け抜けた。
 オレたちとシャリポは別に仲違いなどしていない。相変わらず仲良し同士だ。彼らは毎晩夜襲や補給線の破壊などを繰り返し、別働隊を疲弊させていた。ジュリアのスキルで大規模転移が行われるその時点で、彼らの士気は極限まで落ち込んでいた。

 とは言え、それでも6万対1万だ。数字上ではこちらが圧倒的不利だし、そこかしこに間者が潜んでいるので詳細な作戦を全将兵に伝えることも出来ない。

「どうやら間に合ったみたいだな」

 本営のテントの前に、西の大陸の反乱軍を指揮しているはずのアキラ兄さんが姿を表した。

「ナイスタイミングだ、兄さん」
「よーし、それじゃあ勝利するとしよう!」

 ここで、この戦い最大のトリックが発動する。