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「今回の戦い、ギョンボーレは中立の立場を取らせていただく」

 シャリポがそう宣言し、ギョンボーレ隊を率いて離脱したのは、軍議の5日後だった。彼は理由を表明しなかったが、対聖石兵器(ターラクリスタルウェポン)に対する疑念であろうと、誰もが噂していた。

「いいのですか、二人とも?」

 シホが泣き出しそうな顔でオレとリョウに詰め寄ってきた。彼女の話では、兵士たちに動揺が走っているらしい。

「オベロン王とハンシイ姫。この二人からの信用が、私たちの大義です。その片方を失った事で、全軍の士気が下がっています!」

 挙兵後ようやく気づいた事だが、オベロン王はこの世界では、何よりも尊敬されている存在の一つだった。聖石を生み出し、魔族との戦いでは人に寄り添い続けた幻の種族の王。彼が叙任したからこそ、賢者の権威は偉大なものとされているし、今回の戦いにも多くの人々が参加している。
 そのオベロン王に警戒されてまで、対聖石兵器とやらを使わなければならないのか? 大賢者は焦り過ぎてないか? そんな声はオレの元にも届いていた。

「シャリポやオベロン王には、彼らなりの正義がある。それを尊重したいから、私は離脱を認めたの」
「リョウさん、しかしそれでは……ゲンさん! さっきから私の話聞いてますか?」

 シホは苛立っていた。オレが彼女の報告などお構いなしに何かを書き続けているのが、気になるらしい。

「大丈夫、聞いてるから」
「聞いてるからって……」

 リョウは彼女を智の騎士(エスカントニール)に任命していた。賢者の護衛役に与えらる役職で、もともとシャリポが任じられていたものだ。同時にこの役職は、ギーブル軍の指揮官的な意味合いも持っている。
 すでに西ではアキラ兄さんが、北ではマコトがオクト軍と激突し戦争が始まっている。そんな中でギーブでの決戦を指揮するシホは焦りを隠せないでいた。

「と、こんなところかな?」

 オレは書き上げた紙をリョウに見せる。

「どれ? ……うん! いいんじゃない」

 隅から隅まで目を通したリョウは大きく頷いた。

「二人とも一体何を見ているんです? いいですか、私は……」
「シホさん、おでこ出して」
「え?」

 リョウは紙を左手に持ち、右手をシホの顔に近づける。

「もしかして、投影……ですか?」

 シホに投影を行うのはこれが初めてだ。シホは恐る恐る、手で前髪をたくし上げて額を見せる。リョウの手から発して光がシホの頭へと伝播した。

「ふあっ」

 初めての体験に反射的にのけぞるシホ。ふと初めてこのスキルを試した時の、目を白黒させるマコトを思い出した。

「これは……作戦?」
「納得した?」

 リョウは左手の紙を蝋燭に近づけながら尋ねる。紙は先端から焦げはじめ。みるみるうちに炎の中に消滅した。これでオレが書いた内容を知るものはリョウとシホしかいない。

「しかしこれは……いや、確かにこれしか無いですね。オクトに勝つためには」