* * *
「今回の戦い、ギョンボーレは中立の立場を取らせていただく」
シャリポがそう宣言し、ギョンボーレ隊を率いて離脱したのは、軍議の5日後だった。彼は理由を表明しなかったが、対聖石兵器に対する疑念であろうと、誰もが噂していた。
「いいのですか、二人とも?」
シホが泣き出しそうな顔でオレとリョウに詰め寄ってきた。彼女の話では、兵士たちに動揺が走っているらしい。
「オベロン王とハンシイ姫。この二人からの信用が、私たちの大義です。その片方を失った事で、全軍の士気が下がっています!」
挙兵後ようやく気づいた事だが、オベロン王はこの世界では、何よりも尊敬されている存在の一つだった。聖石を生み出し、魔族との戦いでは人に寄り添い続けた幻の種族の王。彼が叙任したからこそ、賢者の権威は偉大なものとされているし、今回の戦いにも多くの人々が参加している。
そのオベロン王に警戒されてまで、対聖石兵器とやらを使わなければならないのか? 大賢者は焦り過ぎてないか? そんな声はオレの元にも届いていた。
「シャリポやオベロン王には、彼らなりの正義がある。それを尊重したいから、私は離脱を認めたの」
「リョウさん、しかしそれでは……ゲンさん! さっきから私の話聞いてますか?」
シホは苛立っていた。オレが彼女の報告などお構いなしに何かを書き続けているのが、気になるらしい。
「大丈夫、聞いてるから」
「聞いてるからって……」
リョウは彼女を智の騎士に任命していた。賢者の護衛役に与えらる役職で、もともとシャリポが任じられていたものだ。同時にこの役職は、ギーブル軍の指揮官的な意味合いも持っている。
すでに西ではアキラ兄さんが、北ではマコトがオクト軍と激突し戦争が始まっている。そんな中でギーブでの決戦を指揮するシホは焦りを隠せないでいた。
「と、こんなところかな?」
オレは書き上げた紙をリョウに見せる。
「どれ? ……うん! いいんじゃない」
隅から隅まで目を通したリョウは大きく頷いた。
「二人とも一体何を見ているんです? いいですか、私は……」
「シホさん、おでこ出して」
「え?」
リョウは紙を左手に持ち、右手をシホの顔に近づける。
「もしかして、投影……ですか?」
シホに投影を行うのはこれが初めてだ。シホは恐る恐る、手で前髪をたくし上げて額を見せる。リョウの手から発して光がシホの頭へと伝播した。
「ふあっ」
初めての体験に反射的にのけぞるシホ。ふと初めてこのスキルを試した時の、目を白黒させるマコトを思い出した。
「これは……作戦?」
「納得した?」
リョウは左手の紙を蝋燭に近づけながら尋ねる。紙は先端から焦げはじめ。みるみるうちに炎の中に消滅した。これでオレが書いた内容を知るものはリョウとシホしかいない。
「しかしこれは……いや、確かにこれしか無いですね。オクトに勝つためには」
「今回の戦い、ギョンボーレは中立の立場を取らせていただく」
シャリポがそう宣言し、ギョンボーレ隊を率いて離脱したのは、軍議の5日後だった。彼は理由を表明しなかったが、対聖石兵器に対する疑念であろうと、誰もが噂していた。
「いいのですか、二人とも?」
シホが泣き出しそうな顔でオレとリョウに詰め寄ってきた。彼女の話では、兵士たちに動揺が走っているらしい。
「オベロン王とハンシイ姫。この二人からの信用が、私たちの大義です。その片方を失った事で、全軍の士気が下がっています!」
挙兵後ようやく気づいた事だが、オベロン王はこの世界では、何よりも尊敬されている存在の一つだった。聖石を生み出し、魔族との戦いでは人に寄り添い続けた幻の種族の王。彼が叙任したからこそ、賢者の権威は偉大なものとされているし、今回の戦いにも多くの人々が参加している。
そのオベロン王に警戒されてまで、対聖石兵器とやらを使わなければならないのか? 大賢者は焦り過ぎてないか? そんな声はオレの元にも届いていた。
「シャリポやオベロン王には、彼らなりの正義がある。それを尊重したいから、私は離脱を認めたの」
「リョウさん、しかしそれでは……ゲンさん! さっきから私の話聞いてますか?」
シホは苛立っていた。オレが彼女の報告などお構いなしに何かを書き続けているのが、気になるらしい。
「大丈夫、聞いてるから」
「聞いてるからって……」
リョウは彼女を智の騎士に任命していた。賢者の護衛役に与えらる役職で、もともとシャリポが任じられていたものだ。同時にこの役職は、ギーブル軍の指揮官的な意味合いも持っている。
すでに西ではアキラ兄さんが、北ではマコトがオクト軍と激突し戦争が始まっている。そんな中でギーブでの決戦を指揮するシホは焦りを隠せないでいた。
「と、こんなところかな?」
オレは書き上げた紙をリョウに見せる。
「どれ? ……うん! いいんじゃない」
隅から隅まで目を通したリョウは大きく頷いた。
「二人とも一体何を見ているんです? いいですか、私は……」
「シホさん、おでこ出して」
「え?」
リョウは紙を左手に持ち、右手をシホの顔に近づける。
「もしかして、投影……ですか?」
シホに投影を行うのはこれが初めてだ。シホは恐る恐る、手で前髪をたくし上げて額を見せる。リョウの手から発して光がシホの頭へと伝播した。
「ふあっ」
初めての体験に反射的にのけぞるシホ。ふと初めてこのスキルを試した時の、目を白黒させるマコトを思い出した。
「これは……作戦?」
「納得した?」
リョウは左手の紙を蝋燭に近づけながら尋ねる。紙は先端から焦げはじめ。みるみるうちに炎の中に消滅した。これでオレが書いた内容を知るものはリョウとシホしかいない。
「しかしこれは……いや、確かにこれしか無いですね。オクトに勝つためには」