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 それからオレたちの世界行脚が始まった。オクトへの反攻を表明した都市や貴族領を中心に、クルシュに乗って駆け回る。市長や領主、将軍達と会見し、王女のミトレムを見せる。

『このような時に、神は大賢者を遣わされたか!』
『喜んで、貴方がたの幕下に入りましょう!』
『勇者オクトは魔王以上の驚異! お力添えさせて下され!!』

 ミトレムの持つ力は凄まじい。オレたちが姫の代理人であることを、誰も疑わなかった。訪れる先では必ず協力を取り付けることができた。次第に、直接協力を要請していない街でも『大賢者連合』への合流を表明するところが現れ、ひと月も経たないうちに、その流れは世界中に広まった。

 中でも、穀倉地帯ベレテナが壊滅した西の大陸では反オクトを声高に叫ぶものが多く、いつ戦端が開かれてもおかしくないという。

「暴発はまずい。アキラ兄さん、西の大陸へ行って欲しい。兄さんなら、頭に血が上っている人たちをまとめられるだろう」
「おう、わかった」
「北の大陸には、マコトが行ってくれ。ふたりとも、必要に応じてこっちにも戻ってきてもらう」
「ったく人使いが荒いな。まぁ了解だ。オクトの敵意を北に向けといてやるよ」

 そして北と西で組織的な反乱軍が挙兵すれば、オクトも討伐軍を向けるだろう。その間、賢者軍の本隊を組織する準備に使えるわけだ。世界地図を広げながらオレ達は戦略を練る。

「あとは、根拠地だな」

 世界規模の戦争となると、人と情報を集める場所が必要だ。この山間の村ではそれは難しい。クルシュを駆使すればここでの指揮も可能かもしれないけど、この霊獣の存在は出来る限り秘匿したかった。
 もしその特性をオクトたちに研究されれば、糸電話を用いた諜報も難しくなる。