*  *  *

「そなたがリョウか?」
「お初にお目にかかります、王女殿下。私は転生者マエザワ・リョウ。横に控えまするは同じく転生者にして私の友人、スギシロ・ゲンにございます」

 覚えたばかりの宮廷言葉を滑らかに使い、リョウはオレたちの紹介をする。

「大儀である。シホより聞いておる。オベロン王より賢者の称号を授かったそうだな」

 先王の末娘、ハンシイ王女は9歳だとシホから聞いている。とても小学3年生とは思えないほど堂々とした受け答えだった。

「は、私とリョウは大賢者の位を賜りました。他に6名が賢者がおります。本来ならば、先例にならい8名全員で殿下にご報告すべきところですが、危急の折につき2名のみの参上となりました事、お許し下さい」

 事前に投影していたため、リョウの口からはよどみなく宮廷言葉が流れていた。

「こちらも本来は亡きわが父が報告を受けるべきであった。危急はお互い様だ」
「ははっ」

 リョウは頭を深く下げる。オレもそれに続く。

「して……」

 殿下は話を続ける。

「挨拶のためだけに来たのではなかろう。シホより聞いておる」
「はい。我々は反逆者オクトと戦を始めました。我々は拠点たるガズトの村の防衛に成功しましたが、オクトも早々に撤退したため引き分けと相成りました」
「オクトは私の家族の仇でもある。奴と戦ってくれた事、感謝する」
「ありがたき幸せ。ですが、此度の戦いは我々の私戦。王宮のために戦っているわけでは無いことは、ご理解くだされ」
「うむ? どういうことだ?」

 殿下は首をかしげる。シホの顔にも疑問符が浮かんでいた。シホは王宮復興のための援助を頼んできた。オレたちにしても、反オクト勢力をまとめるために願ってもいない大義名分だと思う。けど、リョウにはリョウなりの考えがあるようだった。

「賢者とは本来、この世界の知識を司る存在。軍を動かし戦をする者ではございません。此度の戦いも、オクトが我々の第二の故郷を脅かしたための戦いであり、大義はございません」
「ふ、む……?」

 言っている意味がわからない、という顔だった。オレもいまいちリョウの真意を掴み損ねている。

「ですが王宮が賢者の力を必要とし、王の名において私どもに命じるならば、王の守護者として剣を取る用意はございます」
「大賢者リョウ、私にも仰る意味が……?」

 横に控えていたシホが口を挟む。

「王の要請があれば、正規軍として動く。それがなくとも私戦としてオクトとは戦い続けるということよ、シホ」
「し……しかし、父上はすでに……」
「それ故に、です。残念ですがあなたは()()戦争を指揮するお立場ではありません。王の名でオクトと戦うにはあなたが女王となること。でなければ民はついてこないでしょう。ですが、殿下にそのお覚悟はございますか?」
「大賢者リョウ、いささか無礼ではありませんか?」
「いかにも、非礼はご容赦下さい。しかし殿下、あなたはまだ幼い。国を背負うには早すぎると、私は考えております」

 その時シホはハッと何かに気づいたように顔色を変えた。

「何卒、此度は我々の私戦をお許し下され。我々がオクトに勝った暁には、あなた様に王権を奉還するつもりでございます」

 そういう事か。リョウはこの姫に、弱冠9歳の少女に、まだ王の責任を負わせたくないと考えているんだ。