* * *
聖石堂の集会所は今、ギョンボーレ隊の待機所として使われている。
「大賢者ゲン、お加減はいかがですか?」
オレが入ると、ギョンボーレたちは姿勢を整え敬礼をする。
「ああ、大丈夫だ。それよりもシャリポ、お前の方がダメージ大きいだろ? 大丈夫か?」
「心配は御無用です。賢者アツシのスキルで、すでに全快しております」
「よかった。それで、合わせたい人がいるって聞いたんだけど?」
「大賢者ゲン……さん、ですか?」
日本語だった。長身のギョンボーレ族の間を縫って、小柄な影がこちらに歩み寄ってきた。甲冑に身を包む、黒髪の女性。転生者か?
「私、鳴滝シホと言います。言葉でわかるかも知れませんが、転生者です」
知ってる名前だ。アグリが叫んでいた。
「確か討伐軍の……」
「はい。大賢者リョウから聞きました。私たちの事は筒抜けだったって。負けて当然です……」
「いえ、あなたがとった迂回路に、オレ達はなんの備えもしていませんでした。もし全軍であのルートを取られていたら、ヤバかったです」
シホの姿を眺める。年齢はオレと同じくらいか。切れ長の目と整った鼻筋。髪をポニーテールにしていることもあってか、凛とした佇まいだ。軽装だけどしっかりした作りの甲冑。腰には小剣。もうひとりの分隊長のセイヤは、ローブに身を包む魔術師的な風貌だったけど、彼女は最前列で敵とぶつかる戦士系の出で立ちだった。武器も取り上げられず、手足も拘束されていない。リョウは彼女を捕虜として扱っていないようだ。
「私はこれまで聖石騎士団に加わっており、魔王討伐にも参加しましたが、これからはあなた方の指揮下に入りたく投降しました。どうかこれを」
シホは小剣を鞘ごと腰から外し、深々と頭を下げながら、オレに捧げた。剣の鍔の部分には石がはめ込まれている。聖石兵器だ。
「わかりました。オレたちに加わってくれるのは嬉しい。それなら、その剣は君が使って下さい」
剣をシホの手に戻すと、彼女は目を丸くした。
「私を……信じるのですか?」
「リョウは信じたんでしょう? それなら、オレが疑う理由はありませんよ」
「言ったでしょ、シホさん。大賢者ゲンはそういう奴だって」
リョウが集会所に入ってきた。
「やっぱり、あいつらとは違う」
「あいつらって……オクトの事ですか?」
「はい。オクト一派は、ともに魔王を討伐した聖石騎士団の仲間すら信用していません。私はその……」
シホは口ごもる。
「アイツの妃にされそうだったから……ある程度発言権があったけど……」
そう言えば、アグリは「オクトの女」とか言ってたな。でも、今の彼女の苦々しい顔を見ると、実情が違うのは一目瞭然だった。
「それでもアグリは聞く耳を持たなかった。アイツら自分のことしか信じてないんです」
だろうな。世界の独裁なんて目指す連中が、誰かを信じるなんて出来るはずがない。
「それで、シホさん。大賢者二人が揃ったら話したいことって?」
リョウが尋ねる。話したいこと?
「はい。ひとつは私が独自に作った辞書について」
辞書だって!? オレ達以外にも作ってる転生者がいたのか?それもオクトの部下に……!
「もうひとつは……こちらのほうが重要なのですが」
シホはひと呼吸おいた。
「先王の末娘、ハンシイ様を安全な場所に匿っています。どうか王宮再興に力をお貸しください!」
聖石堂の集会所は今、ギョンボーレ隊の待機所として使われている。
「大賢者ゲン、お加減はいかがですか?」
オレが入ると、ギョンボーレたちは姿勢を整え敬礼をする。
「ああ、大丈夫だ。それよりもシャリポ、お前の方がダメージ大きいだろ? 大丈夫か?」
「心配は御無用です。賢者アツシのスキルで、すでに全快しております」
「よかった。それで、合わせたい人がいるって聞いたんだけど?」
「大賢者ゲン……さん、ですか?」
日本語だった。長身のギョンボーレ族の間を縫って、小柄な影がこちらに歩み寄ってきた。甲冑に身を包む、黒髪の女性。転生者か?
「私、鳴滝シホと言います。言葉でわかるかも知れませんが、転生者です」
知ってる名前だ。アグリが叫んでいた。
「確か討伐軍の……」
「はい。大賢者リョウから聞きました。私たちの事は筒抜けだったって。負けて当然です……」
「いえ、あなたがとった迂回路に、オレ達はなんの備えもしていませんでした。もし全軍であのルートを取られていたら、ヤバかったです」
シホの姿を眺める。年齢はオレと同じくらいか。切れ長の目と整った鼻筋。髪をポニーテールにしていることもあってか、凛とした佇まいだ。軽装だけどしっかりした作りの甲冑。腰には小剣。もうひとりの分隊長のセイヤは、ローブに身を包む魔術師的な風貌だったけど、彼女は最前列で敵とぶつかる戦士系の出で立ちだった。武器も取り上げられず、手足も拘束されていない。リョウは彼女を捕虜として扱っていないようだ。
「私はこれまで聖石騎士団に加わっており、魔王討伐にも参加しましたが、これからはあなた方の指揮下に入りたく投降しました。どうかこれを」
シホは小剣を鞘ごと腰から外し、深々と頭を下げながら、オレに捧げた。剣の鍔の部分には石がはめ込まれている。聖石兵器だ。
「わかりました。オレたちに加わってくれるのは嬉しい。それなら、その剣は君が使って下さい」
剣をシホの手に戻すと、彼女は目を丸くした。
「私を……信じるのですか?」
「リョウは信じたんでしょう? それなら、オレが疑う理由はありませんよ」
「言ったでしょ、シホさん。大賢者ゲンはそういう奴だって」
リョウが集会所に入ってきた。
「やっぱり、あいつらとは違う」
「あいつらって……オクトの事ですか?」
「はい。オクト一派は、ともに魔王を討伐した聖石騎士団の仲間すら信用していません。私はその……」
シホは口ごもる。
「アイツの妃にされそうだったから……ある程度発言権があったけど……」
そう言えば、アグリは「オクトの女」とか言ってたな。でも、今の彼女の苦々しい顔を見ると、実情が違うのは一目瞭然だった。
「それでもアグリは聞く耳を持たなかった。アイツら自分のことしか信じてないんです」
だろうな。世界の独裁なんて目指す連中が、誰かを信じるなんて出来るはずがない。
「それで、シホさん。大賢者二人が揃ったら話したいことって?」
リョウが尋ねる。話したいこと?
「はい。ひとつは私が独自に作った辞書について」
辞書だって!? オレ達以外にも作ってる転生者がいたのか?それもオクトの部下に……!
「もうひとつは……こちらのほうが重要なのですが」
シホはひと呼吸おいた。
「先王の末娘、ハンシイ様を安全な場所に匿っています。どうか王宮再興に力をお貸しください!」