* * *
『あーあー、聞こえますか?』
ハルマの声が机の上に設置された円筒管から聞こえてきた。おお……とそれを聞いた、村人とギョンボーレの戦士たちがざわめく。
「聞こえてるよハルマ、実験は成功だね!」
アマネが円筒管に向かって話しかけた。まさかここまで上手くいくとは。
今、ハルマは討伐軍の中に紛れ込んでいる。内部から逐一、敵情を伝えるという作戦だ。情報は最大の武器だ。オレたちには、自由にあらゆる場所を行き来できる霊獣クルシュがある。だから、もともとこの方面では敵よりも有利だった。けど、アマネのアイデアがその優位性をさらに一歩先へ進めた。
「糸がたわむと音が通じにくくなるから気を付けてね」
『わかってます』
円筒管の後ろにはフタがしてあり、その真ん中から一本の糸が出ている。この糸は1m程先で結界の霧の中に消えている。さらにその先はハルマの元まで続いていて、これを振動させることで音声のやり取りをする。
要するに糸電話である。こんな子供のおもちゃを戦争に利用しようと思いつくのは、アマネならではの発想だった。今回の戦いに出番がないとか考えててホント、申し訳ない……。
どうやって敵軍に潜むハルマと糸電話で通話するのか、そもそもハルマは敵軍にどうやって紛れ込んでいるのか。それこそがこの作戦のキモだ。
これは元の世界には無かった二つのキーアイテムを利用した通信装置だ。一つは霊獣クルシュ。この動物が羽ばたくとそこには空間を超越する結界が生み出され、遠隔地へワープすることができる。つまりこれはクルシュが同じ場所で羽ばたき続けると、二つの空間が繋がるということでもある。一種のワープトンネルがそこに開いた状態となるのだ。
クルシュの尻尾に糸電話の糸をくくり付けて羽ばたかせる。そうすれば、糸の一端をこちらに残したまま、遠隔地にもう一端を送ることができるのだ。
「まさか、クルシュのこんな使い方があるなんて……」
シャリポは目を丸くしてつぶやいた。クルシュを見慣れていたギョンボーレにもなかった発想らしい。糸電話というものを知っていたオレたちですら、半信半疑のまま実験したら上手くいったワケなのだから、無理もない。
ただ、二つの空間をつなげるためにはクルシュは羽ばたき続けなければいけない。敵軍の真ん中で有翼一角の馬が走り回っていたら潜入どころではない。その姿を隠す必要があった。
そこで登場するもう一つのキーアイテムが、オベロン王より贈られた革袋だ。オレたちが「四次元革袋」と呼ぶこの袋は、見た目の何十倍もの容量がある。リョウが分厚い辞典をしまっていたのがこの袋で、オクトたちもケルベロスの首を同じような袋に入れていた。
言うまでもなく、この呼び名の元ネタは転生者なら誰もが知ってる国民的アニメに登場するポケットだ。ただしこの革袋は、4次元空間に通じているわけではない。魔法の力で中の空間が縮小されているだけだ。それでもクルシュ1頭を格納して、羽ばたかせられるだけの広さはあった。
『あ、リョウさんが何か言ってます』
ハルマとクルシュが入っている袋を持っているのはリョウだ。我らが総大将は、隊員名簿に自分の名を書き足したものを隊長に投影して、自らアグリの軍勢に紛れ込んでいた。この世界の言葉が堪能なため、兵士たちもアグリ本人も、彼が転生者だとは思っていない。
『もしもし、リョウさんが湿地帯に到着したといってます』
「了解。予想よりちょっと早いかな……?」
アマネは紙に書かれた地図の上に印と時刻を表す数字を書きこんだ。
「まぁ、誤差の範囲だろう。どうせこの湿地帯を素通りすることはできない。奴らが俺たちの罠に混乱するさまをライブで聴かせてもらおうぜ」
『実況は任せてください!』
ハルマは言った。大丈夫、オレたちの作戦はしっかりと形になっている。あとは、各チームの動きを信じる、それだけだ。
『あーあー、聞こえますか?』
ハルマの声が机の上に設置された円筒管から聞こえてきた。おお……とそれを聞いた、村人とギョンボーレの戦士たちがざわめく。
「聞こえてるよハルマ、実験は成功だね!」
アマネが円筒管に向かって話しかけた。まさかここまで上手くいくとは。
今、ハルマは討伐軍の中に紛れ込んでいる。内部から逐一、敵情を伝えるという作戦だ。情報は最大の武器だ。オレたちには、自由にあらゆる場所を行き来できる霊獣クルシュがある。だから、もともとこの方面では敵よりも有利だった。けど、アマネのアイデアがその優位性をさらに一歩先へ進めた。
「糸がたわむと音が通じにくくなるから気を付けてね」
『わかってます』
円筒管の後ろにはフタがしてあり、その真ん中から一本の糸が出ている。この糸は1m程先で結界の霧の中に消えている。さらにその先はハルマの元まで続いていて、これを振動させることで音声のやり取りをする。
要するに糸電話である。こんな子供のおもちゃを戦争に利用しようと思いつくのは、アマネならではの発想だった。今回の戦いに出番がないとか考えててホント、申し訳ない……。
どうやって敵軍に潜むハルマと糸電話で通話するのか、そもそもハルマは敵軍にどうやって紛れ込んでいるのか。それこそがこの作戦のキモだ。
これは元の世界には無かった二つのキーアイテムを利用した通信装置だ。一つは霊獣クルシュ。この動物が羽ばたくとそこには空間を超越する結界が生み出され、遠隔地へワープすることができる。つまりこれはクルシュが同じ場所で羽ばたき続けると、二つの空間が繋がるということでもある。一種のワープトンネルがそこに開いた状態となるのだ。
クルシュの尻尾に糸電話の糸をくくり付けて羽ばたかせる。そうすれば、糸の一端をこちらに残したまま、遠隔地にもう一端を送ることができるのだ。
「まさか、クルシュのこんな使い方があるなんて……」
シャリポは目を丸くしてつぶやいた。クルシュを見慣れていたギョンボーレにもなかった発想らしい。糸電話というものを知っていたオレたちですら、半信半疑のまま実験したら上手くいったワケなのだから、無理もない。
ただ、二つの空間をつなげるためにはクルシュは羽ばたき続けなければいけない。敵軍の真ん中で有翼一角の馬が走り回っていたら潜入どころではない。その姿を隠す必要があった。
そこで登場するもう一つのキーアイテムが、オベロン王より贈られた革袋だ。オレたちが「四次元革袋」と呼ぶこの袋は、見た目の何十倍もの容量がある。リョウが分厚い辞典をしまっていたのがこの袋で、オクトたちもケルベロスの首を同じような袋に入れていた。
言うまでもなく、この呼び名の元ネタは転生者なら誰もが知ってる国民的アニメに登場するポケットだ。ただしこの革袋は、4次元空間に通じているわけではない。魔法の力で中の空間が縮小されているだけだ。それでもクルシュ1頭を格納して、羽ばたかせられるだけの広さはあった。
『あ、リョウさんが何か言ってます』
ハルマとクルシュが入っている袋を持っているのはリョウだ。我らが総大将は、隊員名簿に自分の名を書き足したものを隊長に投影して、自らアグリの軍勢に紛れ込んでいた。この世界の言葉が堪能なため、兵士たちもアグリ本人も、彼が転生者だとは思っていない。
『もしもし、リョウさんが湿地帯に到着したといってます』
「了解。予想よりちょっと早いかな……?」
アマネは紙に書かれた地図の上に印と時刻を表す数字を書きこんだ。
「まぁ、誤差の範囲だろう。どうせこの湿地帯を素通りすることはできない。奴らが俺たちの罠に混乱するさまをライブで聴かせてもらおうぜ」
『実況は任せてください!』
ハルマは言った。大丈夫、オレたちの作戦はしっかりと形になっている。あとは、各チームの動きを信じる、それだけだ。