「それじゃあ、明後日までには戻る」
「ああ。アマネもクルシュに振り落とされないようにな」
「馬鹿にしないで。半年間図書館にこもってたアンタたちと違って、こっちは毎日動き回ってたんだから!」

 リョウとアマネは、クルシュにまたがっている。ギョンボーレの都に戻り、歴史書翻訳の過程で俺たちが得た知識を全てアマネにも投影するのだ。さらにリョウは、これから始まるだろう戦に役立つ本も持ち帰るつもりだ。
 リョウとアマネを乗せた2頭のクルシュは羽を広げて走り出す。しばらく助走をつけた後、後ろ脚を強く蹴り上げると結界を越えて、霧の中の都へと姿を消していった。

「さて……マコト、シラン、アキラ兄さん、みんなも手はず通り頼んだ!」
「よーし! ようやくバトルだ!」

 マコトは待ちくたびれたとでも言いたげだった。もともとスキルも本人の性格も、狩りや戦闘向きだ。翻訳作業では活躍の場が少なく、摩擦を生むようなこともあったけど、これからは実戦隊長として前線で活躍するだろう。

「おけおけー。3日以内に完成させっから!」

 シランはこれから戦場となるだろう南の湿地帯へ向かう。ギャル系転生者の彼女は、どういうわけか今やこの世界最高クラスの軍師となっていた。
 人の向き不向きはわからないもので、翻訳作業で彼女が活躍したのは、戦史分野の解読だったのだ。彼女の頭にはこの世界のあらゆる兵法書や戦争の記録が投影されていて、それを用いた様々な発想で歴史書解読を進めてくれた。

「リョウの不在時はゲン、お前が総大将だ。ここでどっしり構えててくれ!」
「ずりいな、兄さん。最年長なのに」
「そうよ、大人はずるいのよ」

 アキラ兄さんは笑った。彼のスキルも、この戦いでは重要となる。シランと一緒に行動し、戦場となる場所の選定と下準備を担当する。

 すでにハルマがクルシュで駆け巡り、王都の動きを収集していた。予想通り、勇者王オクトはこの村を反逆者と見なし討伐軍を送り出したようだ。
 その数、3部隊2千人。大将はあの闘聖(バトルマスター)アグリ。副将の2人も、オクトに聖石兵器(クリスタルウェポン)を与えられた転生者だという。奴らは既に王都を進発し、5日後にはこの地域に到達するはずだった。

 転生者と転生者が大規模な戦闘を行うのは、歴史上でも久しぶりだ。最後の戦いは、三英雄時代のノブナーグ王とツァツァウ大宰相の抗争までさかのぼる。およそ280年ぶりの転生者同士の戦争。後に「勇者・賢者戦争」と呼ばれるその戦いの緒戦が、5日後に始まろうとしていた。