数カ月ぶりの帰還。出迎えてくれた村のみんなは唖然としていた。全員がクルシュと呼ばれる霊獣に乗り、数十名のギョンボーレの戦士に守られ、大名行列のような一団となって戻ってきたのだから当然だ。
クルシュはギョンボーレの都で飼育される、馬によく似た動物だ。頭に一本お角があり背中には翼が生えているため、オレたちの知識で言えばユニコーンとペガサスを足したような姿だ。
この翼は結界を通り抜け、世界中の何処にでもいくことが出来る。霧の結界に囲まれたギョンボーレの都。シャリポの案内で訪れたときは、まる一日かかったが、クルシュの手綱を引いてひと走りすると、すぐに村の入口に辿り着いた。
「ゲン! リョウ!!」
二人の門番キンダーとイーズル、そしてアマネ。この3人がまずはオレたちを出迎えてくれた。村の入口には5メートルほどの櫓が建てられ、3人はそこからクルシュの一団を見つけたようだった。何だこれは? 村を出たとき、こんなモノ建っていなかったぞ?
イーズルが村の中に入っていき、大声でオレたちの帰還を伝える。すると村人が一斉に広場に飛び出てきた。
「我々は大賢者、並びに賢者の一行である。この村への逗留、及び村長への会見を希望する!!」
「うわー! いいっていいって!! オレたちにしてみれば帰ってきたようなもんなんだから、そんな物々しい言い方すんなよ」
大賢者や賢者の称号を得た途端、シャリポのオレたちに対する態度が変わった。転生者を見下していたギョンボーレの戦士は、今や賢者の近衛隊長として、オベロン王に与えられた使命を忠実に遂行している。
「は、失礼をば」
「ゲン、お前その言葉……」
キンダーがぽかんとした顔で、オレを見つめる。
「え? ……ああ、久しぶりキンダー。どうだ、言葉上手くなっただろう?」
「上手いなんてもんじゃないよ! なんで? アタシなんかまだカタコトなのに!」
アマネが日本語でそう言ってきた。
「リョウ」
「ん」
リョウはクルシュから降りると、腰に下げた革袋から、製本された異世界語辞典を取りだした。
「え……何そのぶ厚さ? どんだけ言葉増え……」
「これはまだごく一部。同じ厚さがあと3冊ある」
リョウは厚さ十数センチに及ぶ辞書を左手に持ち、右手をアマネにかざす。
「スキル発動!」
リョウの手の平が光り、それがアマネの額に移る。そこから体全体に広がっていく。
「うわ……何これ!? 頭がクラクラす……るううっぷ!?」
アマネは口を手で抑えて、走り去ってしまった。
「一度に情報流し込むと、あんなんなるのか……」
リョウは、頭をかきながらつぶやいた。オレたちは追加分を少しずつ投影していたので、一気に知識を流し込んだのはこれが初だった。
「まいったな。これからアマネには覚えてほしい本が沢山あるんだが……」
「少しずつやっていくしか無いか。アツシ、キミのスキルがまた必要ね」
「ははは……そうですね」
そこにシャリポが声をかけてきた。
「大賢者、村長がお見えです」
隣には村長が立っていた。ゲンは頭を下げる。
「よくぞ戻って参られた」
「お久しぶりです」
「大賢者の称号を得られたとか。もはや貴方がたと対等な付き合いは出来ませんな」
「やめて下さい、オレたちは何も変わってませんから」
大賢者だって? 村人たちがざわつく。当然だ。この世界の歴史を通してもごく僅かな人間にしか使われていない称号なのだ。
賢者は転生者のごく一部、世界の叡智を極めたものにのみ贈られる称号だ。オベロン王によって任命された者は、世界の誰よりも大きな権威を持つとされている。
そして大賢者はオベロン王以外で唯一、賢者の任命権を認められた存在で、賢者の上位に位置する称号だった。
民間伝承の中では、半分神格化されていて、歴代の勇者などよりも遥かに貴重な存在だった。
半年前まで、言葉もまともに話せなかった者たちが、そんなとてつもない者になった。にわかには信じられないだろう。
「この村になくてはならないものを、お持ちしました」
オレは村長に、淡く輝く3つの石を手渡した。まだ成長過程で小さいけども、聖石だ。
「おお、これで……これでこの村は救われる!!」
村長は、その場にくずおれた。
「ご心配おかけしました。何度謝っても足りませんが、改めてオクトたちとやったこと、お詫びします」
「やめて、やめてくだされ! 貴方はこの村の救世主です! 本当に、本当にありがとうございます。
村長はそう言いながら号泣した。この村の最長老とは思えない、まるで子供のような泣き方。それが伝播し、村人全員が泣き始めた。
クルシュはギョンボーレの都で飼育される、馬によく似た動物だ。頭に一本お角があり背中には翼が生えているため、オレたちの知識で言えばユニコーンとペガサスを足したような姿だ。
この翼は結界を通り抜け、世界中の何処にでもいくことが出来る。霧の結界に囲まれたギョンボーレの都。シャリポの案内で訪れたときは、まる一日かかったが、クルシュの手綱を引いてひと走りすると、すぐに村の入口に辿り着いた。
「ゲン! リョウ!!」
二人の門番キンダーとイーズル、そしてアマネ。この3人がまずはオレたちを出迎えてくれた。村の入口には5メートルほどの櫓が建てられ、3人はそこからクルシュの一団を見つけたようだった。何だこれは? 村を出たとき、こんなモノ建っていなかったぞ?
イーズルが村の中に入っていき、大声でオレたちの帰還を伝える。すると村人が一斉に広場に飛び出てきた。
「我々は大賢者、並びに賢者の一行である。この村への逗留、及び村長への会見を希望する!!」
「うわー! いいっていいって!! オレたちにしてみれば帰ってきたようなもんなんだから、そんな物々しい言い方すんなよ」
大賢者や賢者の称号を得た途端、シャリポのオレたちに対する態度が変わった。転生者を見下していたギョンボーレの戦士は、今や賢者の近衛隊長として、オベロン王に与えられた使命を忠実に遂行している。
「は、失礼をば」
「ゲン、お前その言葉……」
キンダーがぽかんとした顔で、オレを見つめる。
「え? ……ああ、久しぶりキンダー。どうだ、言葉上手くなっただろう?」
「上手いなんてもんじゃないよ! なんで? アタシなんかまだカタコトなのに!」
アマネが日本語でそう言ってきた。
「リョウ」
「ん」
リョウはクルシュから降りると、腰に下げた革袋から、製本された異世界語辞典を取りだした。
「え……何そのぶ厚さ? どんだけ言葉増え……」
「これはまだごく一部。同じ厚さがあと3冊ある」
リョウは厚さ十数センチに及ぶ辞書を左手に持ち、右手をアマネにかざす。
「スキル発動!」
リョウの手の平が光り、それがアマネの額に移る。そこから体全体に広がっていく。
「うわ……何これ!? 頭がクラクラす……るううっぷ!?」
アマネは口を手で抑えて、走り去ってしまった。
「一度に情報流し込むと、あんなんなるのか……」
リョウは、頭をかきながらつぶやいた。オレたちは追加分を少しずつ投影していたので、一気に知識を流し込んだのはこれが初だった。
「まいったな。これからアマネには覚えてほしい本が沢山あるんだが……」
「少しずつやっていくしか無いか。アツシ、キミのスキルがまた必要ね」
「ははは……そうですね」
そこにシャリポが声をかけてきた。
「大賢者、村長がお見えです」
隣には村長が立っていた。ゲンは頭を下げる。
「よくぞ戻って参られた」
「お久しぶりです」
「大賢者の称号を得られたとか。もはや貴方がたと対等な付き合いは出来ませんな」
「やめて下さい、オレたちは何も変わってませんから」
大賢者だって? 村人たちがざわつく。当然だ。この世界の歴史を通してもごく僅かな人間にしか使われていない称号なのだ。
賢者は転生者のごく一部、世界の叡智を極めたものにのみ贈られる称号だ。オベロン王によって任命された者は、世界の誰よりも大きな権威を持つとされている。
そして大賢者はオベロン王以外で唯一、賢者の任命権を認められた存在で、賢者の上位に位置する称号だった。
民間伝承の中では、半分神格化されていて、歴代の勇者などよりも遥かに貴重な存在だった。
半年前まで、言葉もまともに話せなかった者たちが、そんなとてつもない者になった。にわかには信じられないだろう。
「この村になくてはならないものを、お持ちしました」
オレは村長に、淡く輝く3つの石を手渡した。まだ成長過程で小さいけども、聖石だ。
「おお、これで……これでこの村は救われる!!」
村長は、その場にくずおれた。
「ご心配おかけしました。何度謝っても足りませんが、改めてオクトたちとやったこと、お詫びします」
「やめて、やめてくだされ! 貴方はこの村の救世主です! 本当に、本当にありがとうございます。
村長はそう言いながら号泣した。この村の最長老とは思えない、まるで子供のような泣き方。それが伝播し、村人全員が泣き始めた。