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 王が定めた期日まで残り3日。翻訳作業も最後の詰めに差し掛かっている。

「皆無理はしてない? 少しでもまずいと思ったら休んでよ」
「馬鹿言うなリョウ! 今寝たら、3日間起きない自信あるぞ……!」
「時間が来たらオレが〈連続攻撃〉で叩き起こすから安心して寝ろ!」

 この一週間は全員、殆ど寝ていない。シャリポの言う通りだ。3つの大陸を初めて統一した現王朝の時代は、押さえるべき事柄が膨大なものになっていた。

「西の大陸の大商人たちについてまとめ終わったぞ」
「よし。北の大陸の漁業の発展と照らし合わせるからこっちに持ってきてくれ」

 3つの大陸が一つにまとまったことで、人の動きが盛んになる。様々な事件が世界各地で勃発し、それが全く違う場所で起きる別の事件の引き金になる。そして変わらず勃発する魔王たちとの戦い。
 登場する用語も格段に増え、1ページ訳すのに、専門書を1冊読まなければならない。

「みなさん、休憩してください。頭を使ったあとは、甘いものが良いとハルマさんから聞きましたので、ケーキを焼きました」

 甘い香りを漂わせながら、フェントがワゴンを押して部屋に入ってきた。わあっと歓声が上がり、一同、皿を持ってワゴンの前に並ぶ。

「いつもありがとうな、フェントちゃん。ところで、アツシは大丈夫か?」
「はい、今朝は(ミェーニェ)を食べました。だいぶ回復してるようです」

 一番最初に倒れたのがアツシだった。無理もない。アツシの役割は、疲れきった俺たちを〈治癒力増幅〉で癒やすこと。けど、アツシを癒せる者はいない。
 全員が不眠不休の中、アツシも丸1日スキルを使い続け、3日前にダウンしてしまった。

 リョウとオレは、もうアツシのスキルに頼らないと決めた。反対するヤツもいなかった。やばくなったら6時間寝る。それを絶対のルールとして、残りの翻訳にぶつかっている。

『ゲン、リョウ。代表者たる二人にこの世界のあらましを口頭で説明してもらう。そしてその後に、私からふたつの質問をする』

 昨日、オレとリョウは王の元に呼び出された。そこで初めて、翻訳の成果の示し方を教えられた。

『ふたつの? いったいどのような?』
『それを今言ってしまったら試験にはなるまい』

 王は笑った。

『ただ言えるのは……その質問は、この世界の本質に関することだ。私が書いた書に答えは載っていない。だが、あの書の知識をものとしていれば、自ずと答えはわかるだろう』

 どういうことだ? 考えようとしたけど、すぐに辞めた。その心配をしてもどうしようもない。読みこなせば答えが見えるのであれば、今は残りを仕上げることだけを考えよう。

「よし、みんなここが最後の踏ん張りだ!」

 新たなページの清書が終わり、リョウに手渡す。この作業もあと数回となるだろう。