* * *
丘には続々と人が集まってきた。図書館からアキラ兄さんたちを呼んで戻ってくると、フェント以外にギョンボーレ族が集まっており、さらに今も増え続けている。彼らは、丘の上に立つあずま屋のまわりで何かを作業したり、大皿に料理を盛り付けて持ってきたりしている。その集団から少し離れた位置に、マコトとシランがいた。けどバツがあるそうにこちらをチラチラみるだけで、二人がオレたちの輪に戻ってくる様子はない。
「な、なぁフェント、一体何が始まるんだ?」
『ふふっ 皆さんはゲストですので、ゆっくり待っていて下さい』
せわしなく動き回るフェントを捕まえて尋ねても、笑みを浮かべて意味深なことを言うだけでさっぱりわからない。
「宴会でも始める気なんでしょうか……?」
「うん、料理が運ばれてるし、そんな雰囲気だよな」
「いや宗教的な儀式じゃないか? あのあずま屋、よく見ると聖石堂と似た作りだ」
アキラ兄さんに言われて気がついた。あずま屋は、四本の柱で三角の屋根が支えられるた、教会の尖塔のような構造をしている。塔の根本からは四方にも屋根が伸びていて上から見ると、十字形となっている。あの作りをそのまま大きくしたら村の聖石堂だ。
「考えてみると、あの図書館の構造と似たような感じですよね。意味のある形なのかも」
てことは、あの大皿料理はお供え物? 兄さんの読みは正しそうだ。
『そろそろ日が暮れますね。ゲンさん、おまたせしました』
フェントがオレたちの近くに歩み寄ってきた。ギョンボーレの都は、谷底にあるため日が暮れるのが早い。太陽はとっくに山の縁に隠れて見えなくなっており、空に浮かぶ雲の赤色だけが、その名残となっている。
やがてその雲も色あせ、薄暗くなった空にちらちらと星がまたたき始めた。
「ほしみの夜を とりおこないます」
フェントがあずま屋の前でそう宣言すると、三角耳の人々の中から歓声が起きた。次にフェントはオレたちの方を見る。
『今から始めるのは、私たちの一族に伝わる儀式「星見の夜」です。年に四回、暦の区切りで行うもの。王の娘であり星の巫女たる私は、秋の儀式を本日行うことと決めました』
フェントによる解説の日本語訳が頭に響く。彼女は懐からぼんやりと紫色に光る何かを取り出した。あれは、聖石だ。村に祀られていたものと輝きの色が違うけど、間違いない。
フェントはあずま屋の……いや祭壇の中央にそれを捧げた。
「聖神ティガリス 空の神エナウリ 夜の神ウィー みはしらの 神よ わがくもつの 聖石を もって 今宵 われらに みちを しめし給え」
ゆっくり、そしてはっきりと発音するフェントの言葉はオレたちに耳にも捉えやすかった。ティガリス、エナウリ、ウィー、どれもオベロン王の歴史書の序章に登場する神の名前だ。その他の言葉も違和感なく耳に滑り込んでるものが多い。
「ひとの 道のりは わが 道のり 昨日の しるべは 明日の しるべ われは 今を いきる 者 その道は せきじつを いきた 者に ならわん」
聖石の光が強くなり、まっすぐと上に向かって光の柱が伸びる。それが三角屋根にぶつかると、今度は屋根そのものが紫色に輝く。
「すげえ……」
誰かがつぶやいた。オレはゴクリとつばを飲み込む。屋根の発光は、その下で発生した現象と同様、天に向かって光の柱を伸ばし始める。そしてそれがかなりの高さにまで達した所で、夜空そのものが輝き始めた。
丘には続々と人が集まってきた。図書館からアキラ兄さんたちを呼んで戻ってくると、フェント以外にギョンボーレ族が集まっており、さらに今も増え続けている。彼らは、丘の上に立つあずま屋のまわりで何かを作業したり、大皿に料理を盛り付けて持ってきたりしている。その集団から少し離れた位置に、マコトとシランがいた。けどバツがあるそうにこちらをチラチラみるだけで、二人がオレたちの輪に戻ってくる様子はない。
「な、なぁフェント、一体何が始まるんだ?」
『ふふっ 皆さんはゲストですので、ゆっくり待っていて下さい』
せわしなく動き回るフェントを捕まえて尋ねても、笑みを浮かべて意味深なことを言うだけでさっぱりわからない。
「宴会でも始める気なんでしょうか……?」
「うん、料理が運ばれてるし、そんな雰囲気だよな」
「いや宗教的な儀式じゃないか? あのあずま屋、よく見ると聖石堂と似た作りだ」
アキラ兄さんに言われて気がついた。あずま屋は、四本の柱で三角の屋根が支えられるた、教会の尖塔のような構造をしている。塔の根本からは四方にも屋根が伸びていて上から見ると、十字形となっている。あの作りをそのまま大きくしたら村の聖石堂だ。
「考えてみると、あの図書館の構造と似たような感じですよね。意味のある形なのかも」
てことは、あの大皿料理はお供え物? 兄さんの読みは正しそうだ。
『そろそろ日が暮れますね。ゲンさん、おまたせしました』
フェントがオレたちの近くに歩み寄ってきた。ギョンボーレの都は、谷底にあるため日が暮れるのが早い。太陽はとっくに山の縁に隠れて見えなくなっており、空に浮かぶ雲の赤色だけが、その名残となっている。
やがてその雲も色あせ、薄暗くなった空にちらちらと星がまたたき始めた。
「ほしみの夜を とりおこないます」
フェントがあずま屋の前でそう宣言すると、三角耳の人々の中から歓声が起きた。次にフェントはオレたちの方を見る。
『今から始めるのは、私たちの一族に伝わる儀式「星見の夜」です。年に四回、暦の区切りで行うもの。王の娘であり星の巫女たる私は、秋の儀式を本日行うことと決めました』
フェントによる解説の日本語訳が頭に響く。彼女は懐からぼんやりと紫色に光る何かを取り出した。あれは、聖石だ。村に祀られていたものと輝きの色が違うけど、間違いない。
フェントはあずま屋の……いや祭壇の中央にそれを捧げた。
「聖神ティガリス 空の神エナウリ 夜の神ウィー みはしらの 神よ わがくもつの 聖石を もって 今宵 われらに みちを しめし給え」
ゆっくり、そしてはっきりと発音するフェントの言葉はオレたちに耳にも捉えやすかった。ティガリス、エナウリ、ウィー、どれもオベロン王の歴史書の序章に登場する神の名前だ。その他の言葉も違和感なく耳に滑り込んでるものが多い。
「ひとの 道のりは わが 道のり 昨日の しるべは 明日の しるべ われは 今を いきる 者 その道は せきじつを いきた 者に ならわん」
聖石の光が強くなり、まっすぐと上に向かって光の柱が伸びる。それが三角屋根にぶつかると、今度は屋根そのものが紫色に輝く。
「すげえ……」
誰かがつぶやいた。オレはゴクリとつばを飲み込む。屋根の発光は、その下で発生した現象と同様、天に向かって光の柱を伸ばし始める。そしてそれがかなりの高さにまで達した所で、夜空そのものが輝き始めた。