*  *  *

「ここからさき やつの なまえ ぜったい いうな」

 オレたちを先導していたガリファが、山道の途中で立ち止まった。全員に緊張が走る。巣が近いようだ。ガリファは腰をかがめてゆっくり歩き出す。オレたちもあとに続く。道、といっても獣道ですら無い。斜面の中でなだらかな部分や草木の生えてない部分、そういったところ結ぶようにして、かろうじて「道」が出来ている。何度も足を滑らせたり、バランスを崩しかけたりしながら、そこにたどり着いた。

「あれだ」

 ガリファが指差した先には、斜面にぽっかりと空いた穴があった。なるほど。穴からは水が流れ出ていて、それは近くの沢に注がれていた。

「たしかに あぶない」

 イーズルが言う。サスルポの巣穴である可能性が高いということだろう。

 ここに来るまで間に、センディの痕跡、あるいはセンディ本人を見つけ出す事はできなかった。まだ目についていない場所に居てくれたならそれでいい。最悪なのは、あの穴の中にいる場合だ。怪物との戦闘、どこまでやれるか?
 オレたち全員が戦い慣れしてるわけじゃない。最年少で回復役のアツシや、サポートスキルしかもっていないアマネは戦力になれない。知識担当のハルマも体力がないことを自称している。一方で、里で狩猟をしながら弓矢を覚えてきたリョウや、剣道経験者だというマコトは多少戦える。

「中を見に行くしかないな……」
「全員で狭い穴に入るのは危険です。チームを分けませんか?」

 ハルマの提案に反対する者はいなかった。

「そうだな、よし転生者組は私とゲン、それにマコトで入りましょう。それと……イーズルと キンダー いっしょ きて」

 リョウはそう言いながら肩にかけていた弓を外し、いつでも射てるように準備した。オレとマコトも腰からぶら下げた剣の柄に手をかける。村人に借りたものだ。

「ちょっとアタシはぁ?」

 シランは口を尖らせた。〈攻撃魔法〉のスキルを持つシランも戦えるメンバーだ。

「サスルポ むれ つくる そうよね?」

 リョウの確認にキンダーはうなずいた。

「なら外に仲間がいるかも。シランとアキラ兄さんの魔法組は外を見張ってて」
「わかった。アツシやアマネだけを外に待たせるわけもいかないしな」
「兄さんがそういうなら……アタシもアマネん心配だし」

 まだ少し不服そうではあったけど、シランも同意した。

「よし、いくぞ……!」

 ペン以外で〈n回連続攻撃〉スキルを使うのは、オクトから聖石のかけらを奪った時以来だ。腕がなまってなければいいけど……。
 いや、違う。オレは強引にその不安を打ち消す。スキル自体は毎日使ってきたんだ。今では一瞬で数十連撃繰り出せるようにもなっている。剣でも同じことがやれるハズだ!