「かならず つれて もどる」

 翌朝の出発前、キンダーはアニーラにそう告げた。オレたちは夜のうちに村へ降り、ネーランの父親ガリファの案内でガズト山への案内を頼んだ。キンダーは一人で夜の山に行くと言い張っが、村人とオレたちが必死で食い止め、思いとどまらせた。捜索隊のメンバーは、道案内のガリファ、キンダーとイーズル、そしてオレたち転生者8名だ。

「やまで サスルポのはなし だめ これは やまの ちえ」

 ネーランは息子と狩りに行った際、その洞窟を見つけるとすぐに引き返したが、そこがサスルポの巣だという説明はその場ではしなかったようだ。

「サスルポ みみ とてもよい じぶんたちの うわさ すぐ きづく」

 サスルポという怪物の習性なのか、ただの迷信なのかはわからない。どちらにせよ彼の息子ネーランは、湧き水の洞窟が何なのかを理解できず、子どもたちに話してしまったわけだ。
 村の横を流れる川沿いに北へ進むと、山から流れてくる沢の合流点に着いた。この先が、ガリファの狩場らしい。

「じゃあみんな、足を出して!」

 アマネが言った。ここから先は彼女のスキルの出番だ。

「スキル発動!」

 捜索隊のメンバーたちの足が青白く発光し、すぐに消えた。

「なんだ いまのは?」
「キンダー ちょっと あるいてみて」

 リョウに促されたとおり、キンダーは数歩足をすすめる。

「あっ」

 イーズルが地面を見て小さく叫ぶ。キンダーも後ろを振り返り、表情を変えた。キンダーが歩いたところに残された足跡が、青白く光っている。
 アマネの〈足跡顕化〉スキルだ。使用した相手が残す足跡を発光させる。地図づくりや狩りに活用しているスキルだけど、そもそもオレたちが山奥で暮らしていける事、それ自体がアマネのおかげなのだ。

「アマネ、もし言葉が話せていたら、パーティーで重宝されたんじゃないか?」

 彼女なら魔王の迷宮でマッピング要員として、間違いなく活躍できる。

「どうだろうねー。あたし結構同性から嫌われるタチだから」

 アマネは伏し目がちになった。彼女も以前は、言葉が話せる転生者のパーティーに所属していたらしい。けどパーティー内の女性転生者にいびられ、追い出されたのだとか。理由は痴情のもつれ。リーダーの恋人の座の奪い合い……といってもアマネ本人にそのつもりはまったくなく、リーダーが勝手に言い寄る女を乗り換えただけらしいのだが。

「なんか、ごめん……」

 アマネの過去話を聞いて、オレは勝手にばつが悪くなってしまった。

「いいっていいって、もう全然気にしてないし」
「そのハナシ、めためた泣けるんだけどアマンんー!!」

 シランがアマネに抱きついた。その眼にはなぜか涙を浮かべている。

「うわっと、ちょっとシラン!?」
「そーなんだよね! 勝手に色ボケしてる奴らマジで無いから。あり得ない……!」

 何か自身にも嫌な記憶があるのか、アマネの話にかなり共感しているようだ。

「大丈夫、世界中のオンナが敵になっても……オレはお前のこと守っから……!」

 そして彼女なりにイケメン台詞のつもりなんだろう。アマネを見ながら、低めの声色を作ってシランはささやく。その様子に苦笑するアマネ。

「ふふっ、ありがと。あたし的にもシランは友人だから、信じてるぜ!」
「あはっ! ありがとうアマネん♪」

 こいつら仲良いな……。急にわちゃわちゃし始めた二人を見ながら思った。アマネもシランも良い意味で悲壮感がない。センディの安否が気になるのは二人も同じだろうけど、平常運転だ。昨夜の自分やキンダーの取り乱し方を振り返り、彼女たちの強さが羨ましくなった。