「ラータ トゥキトマ ヤ?」

 は?

「ポーラ トゥイ ヤ?」

 なんて?

「トゥキトマ ヤ?」
「ガーシュ ラット!」

 英語ではない。中国語や韓国語の雰囲気でもない。全く聞いたことのない言葉だ。

「ガーシュ タラ ラータ?」
「ガーシュ ミヴ!」

 まったくわからん……。

 時計もスマホもないから正確にはわからないけど、この世界に転生してから1時間くらい経ったと思う。早くもオレの異世界ライフは頓挫していた。
 いかにもファンタジー作品に出てきそうな、中世ヨーロッパ風ののどかな村。丘の下にはそんな風景があった。中央には教会のような石造りの塔を持つ建物がそび、その周りに木の骨組みと白い土壁の民家が建ち並ぶ。その外周は柵で囲まれ、一箇所だけ門がある。これこれ! 想像通りの世界だ!!

 テンションMAXで下り坂を駆け下り、村の入口でついに第一異世界人発見!!

「ポーラ トゥイ ヤ?」

 と思ったのに、ご覧の有り様だ。槍を持った門番らしい二人組にまくし立てられているけど、何を言ってるかさっぱりわからん。

「え、えーと……ワタシ ノ ナマエ スギシロ ゲン イイマス」

 何故かカタコトになった日本語で、自分の顔を指さしながら自己紹介する。数秒の沈黙。

「アー ミスクィ タラ タ ラータ ガーシュ パ!」
「ラノ バクサ タ トゥイ ガーシュ パ!!」

 ですねぇ……。

 考えてみれば、ここは異世界だ。日本語なんて通じるはずがない。なんでオレは、この人達と言葉が通じるなんて無条件に思ってたんだ?

「あー! くそっ!」

 オレは道に転がっている小石を蹴って、やり場のない怒りをぶつけようとする。

「痛ってぇ!?」

 つま先に鈍痛。その小石は、地面に埋まる大きな石の一部だった。ほんの少しだけ露出していたらしい。

「ハハハッ! ウケル!!」

 つま先を抱えて飛び跳ねるオレを見て門番が笑う。

「は? ウケる? 今アンタ、ウケるって言ったよね!!?」

 なんだよ日本語知ってるじゃん! オレは改めて門番たちに向き合う。

「アー ミスクィ タララーノ バクサ」
「っなんだよぉっ!!」

 またすぐに始まる異世界語。

 いかんわコレ。異世界に転移できると聞いた時は、ワクワクが止まらなかった。サンプル映像で見た風景は、ゲームやアニメでお馴染みの()()()()。その世界には恐ろしい魔物とそれを統べる魔王がいて、人間を脅かしている。
 オレはそんな魔王を倒す役目を請け負い、魔族に対抗するための技能(スキル)を与えられた。完璧だった。大冒険は始まろうとしていた!
 ……はずなのに、言葉が通じないとは。

 あの女神、そういう事はちゃんと説明してくれよ!