そんなある日、LHR(ロングホームルーム)の時間に来月の遠足の班決めをすることになった。クラスに親しい人がいない美桜はこの時間が苦手だ。だいたいいつもあぶれた人同士で組むかどこかの空いているグループに最終的に組み込まれる。今日もそのつもりだった。けれど、周りが盛り上がっている中、机から離れない美桜に敦斗は言う。

「お願いがあるんだけど」
「え?」

 普通のトーンで返事をしそうになって、美桜は慌てて口を押さえる。幸い、周りは誰と班を組むかできゃっきゃしていて美桜の声なんて聞こえていないようだった。それでも変に思われないように口元を隠したまま小声で返事をする。

「お願いってなに?」
「あのさ、遠足のグループなんだけど心春たちのところに入ってくれない?」

 どうして、と聞き返そうとして敦斗が心春のことを好きだったことを思い出した。一緒に遊園地を回りたいと思っていたことも。別に美桜のそばにいないで遠足の間中、心春のそばにいればいいのでは、と一瞬思ったけれど、それでは味気ないのかもしれない。
 美桜は心春たちの方へと視線を向ける。心春はクレープ屋で一緒にいた宇田やいつも一緒に騒いでいる子達とグループを組むようだ。男子が一緒にグループじゃないだけマシ、かもしれない。それでもあの輪の中に今から入っていくのは。
 美桜は視線を敦斗へと戻す。敦斗は美桜ではなく心春たちをジッと見つめていた。一緒に、回りたい、よね。

「や、ごめん。無理だったら――」
「……わかった」
「え?」

 クラスを見てもあぶれているのは美桜だけで、どうせどこかのグループには入れてもらわなければならないのだ。それが心春達のグループになるだけのこと。
 美桜は立ち上がると、心春達がいる教卓の方へと足を進めた。ざわついていたはずの教室がどこか静かになった気がする。みんなが美桜を見ているのではないか。そう思うと、今すぐ自分の席に戻りたくなる。けれど、美桜以上に不安そうな表情を浮かべている敦斗に大丈夫だよ、と伝えるように小さく頷いた。

「あ、あの」

 緊張して声が裏返る。震える手を隠すようにぎゅっと握りしめた。美桜の声が聞こえたのか不思議そうに心春が振り返った。

「どうしたの?」
「えっと、その」