「今日はずいぶん眠たそうだね」
 頭上で声がして、私ははっと顔を上げた。いつのまにか、そばに桜川くんが立っていて私を見下ろしている。その表情にはくすりとした笑みが浮かんでいた。

 用事を片付けてから行くという琴美を待ちながら、図書室でひとり勉強をしていた……はずだったのだけど、この数分間の記憶がぼんやりとしてはっきりしない。声をかけられて気づいたら、机の上に広げた教科書が自分の眼前にあった。

 しまった、完全にうつむいて眠ってたみたいだ。私は思わず口元を手で覆った。もし涎なんか垂らしてたら、めちゃくちゃに恥ずかしい。

「大丈夫? 無理して遅くまで勉強してるんじゃない?」
 心配そうにそう尋ねながら、桜川くんは私と向かい合うように座った。

「えっと……ううん、大丈夫。そんなに長くは集中力続かないし」
 勉強はまだまだ追いついていないし、赤点ぎりぎりだし、テストまで日がなくて焦っているのは事実だけど。でも言葉どおり、そもそも私は勉強が好きでも得意でもないので、学校でも放課後でも、さらに家でも遅くまで勉強なんて土台無理な話だ。ついついスマホをいじったりマンガを読んだりして手を止めてしまう。

「だったらいいんだけど」
 今の回答を信じ切ったわけではないようだけど、ひとまず納得してくれたようだった。

 桜川くんと顔を合わせるのはこの間ここで勉強を教えてもらって以来だ。廊下とかで会ったら挨拶ぐらいはしようと心に決めていたけど、そんな機会もなく次に出会ったのが寝ているとことなんて、間が悪すぎる。何だか恥ずかしさが再燃してきた。

 すると桜川くんはバッグから教科書とノートを取り出して勉強を始めた。

「え、何してるの?」
「もちろん、テスト勉強だよ」
 さも当然のような顔をして言うものだから、私は思わず驚いて目を見開いた。

「ここでするの?」
「邪魔だった?」
「いや……そんなことはないんだけど……」
 私は歯切れの悪い返事をする。そのうち琴美がやってくるだろうけど、正面に男の子が座って二人で勉強するなんて、緊張してしまうとは言いづらい。

「大丈夫、僕も高山さんの勉強の邪魔しないから。それに、もしわからないところあったらまた教えてあげるし」
 そう言われるとちょっと心が動く。改めて教科書に目を落とし、自分がどこを勉強していたのか確認すると、理解ができなくて手が止まり、その隙に眠ってしまっていたのだと気づいた。

 桜川くんがいるといないとに関わらず、このままではこのページから先に進めそうにない。

「あのー……」
 私は恥を忍んでそっと手を挙げる。まだ彼自身勉強も始めたばかりなのにいきなり教えてほしいなんて、申し訳なさも相まって伏せ目がちになってしまったけど、桜川くんの反応を見るためにそっと視線を向けた。

 桜川くんは私の控えめに伸びた手の意味をすぐに理解したのか、にこりと笑ってうなずく。本当に、嫌そうな雰囲気をみじんも見せず、まるで待ってましたと言わんばかりに前向きな優しい笑顔だった。

 思わず、どきりとした。

 そしてふと、気づく。彼の雰囲気が、この間会った時より少し穏やかに感じる。何というか肩の力が抜けているような、落ち着いた感じ。

 ひょっとしたら、前回は初めて話したから桜川くんも緊張していたのかもしれない。そして今日は二回目だから緊張しなくなっているのかも。そんなに早くフラットに話せるその心の強さ、私にはうらやましすぎるけど。

 でもほっとした。緊張している者同士が一対一で会話をしようとすると、電波の悪い電話をかけているみたいに、何とも言えない気まずくて重い空気に包まれてしまうのは経験上わかっている。私はしばらく緊張し続けるだろうし、 桜川くんがそういう性格だと助かる。

「どこがわからない?」
 桜川くんがすべりこむように私の隣の席に移動し、教科書を覗き込んでくる。私は心の準備ができていなくて、心臓が飛び跳ねそうだった。

 フラットなのはいいけど、急に距離を縮められると戸惑う。そういう私の性格も困りものだな、と我ながら思ってしまった。

「ここはね……」
 やっぱり桜川くんの教え方は上手でわかりやすい。私もつい調子に乗って、追加で三ヶ所も教えてもらってしまった。たとえ苦手な勉強でも、今までわからなかったことが理解できると気持ちがいい。分厚い雲で覆われた曇り空に急に青空が見えたみたいに、自分にも光が差してきたように感じる。

 教えてもらったことを応用しながら問題を解いていくと、嘘みたいにすらすら解けた。自分で解けたという達成感が、また私を気持ちよくさせた。

 ちょっとだけ、勉強が楽しく思えたかもしれない。まぁ本当にちょっとだけね。

 ジグソーパズルにはまった時みたいにしばらく夢中で問題を解いていたけれど、どれくらいの時間がたったのか再び睡魔が襲ってきて、ふわぁ、と小さくあくびをした。

 壁にかけられた時計を見ると、すでに五時半を回っている。間に合わないかも、とは聞いていたけど、琴美はいつやってくるんだろう。

「勉強じゃないなら、どうしてそんな寝不足なの?」
 私がひとりで問題を解いている間、黙って自分の勉強を続けていた桜川くんが、ふいに思い出したように聞いてきた。

「何かわからないんだけど、最近よく眠れなくて」
「寝つき悪いの?」
「うん、それもあるし、寝てもすぐ目を覚ましちゃうんだよね」
 あまり深刻にとらえているわけじゃないけど、最近の悩みのひとつだった。私はそんなに不眠に悩まされるタイプじゃなかったはずだ。割とベッドに入ればすぐに寝つける方だし、朝までぐっすり眠れていた。

 ところが最近では、授業中に襲ってくる眠気を我慢しなければいけない程度には支障をきたしている。居眠りを注意されるなんて恥ずかしくて死にそうだから、必死で我慢しているけど正直辛い。

「ベタな手だけど、寝る前にホットミルクとか飲んでみるのはどう?」
「私、牛乳嫌いなんだ」
 不眠解消の手としてよく聞くけど、安眠を得るために嫌いなものを我慢して摂取するという選択肢は私の中にない。

「優しい音楽聞くとか、ストレッチするとか」
「そういう音源持ってないし、身体動かすの嫌い」
 どちらも聞いたことがある手だ。でも私には合わないな、と心の中で一蹴した。私にぴったりのちょうどいい手があれば採用したいけど、そのために音源探すのは面倒だし、運動だって三日坊主になるのは目に見えている。

 すると、桜川くんは急におかしそうに笑った。周囲に考慮してか、声を殺すようにして。

「あはは、高山さんって思ってたよりおもしろいね」
「えっ、何で?」
 笑われた理由がわからず、私は思わず聞き返す。

「いや、真面目そうに見えたけど、意外とめんどくさがりなんだなって」
「……そうかな」
 めんどくさがりなのは自覚がある。けど真面目そうかと言われればわからない。変に目立ちたくないから先生に注意されそうなことはしないようにしてるけど、そういうところが周りにはそう見えるのかな。

「……あのさ、連絡先、交換しない?」
 ふいに、桜川くんが言った。

「えっ」
「よく眠れそうな方法、新しいの調べて送るよ。それに、勉強のことだってわからないことあればいつでも聞いてくれていいし」
 私は机の上に置いていたスマホを両手でぎゅっと握って、どうしようかと迷っていた。別に教えたくないわけじゃないけど、男の子と気軽に交換したことも、連絡を取り合ったこともない。メッセージが来たらうまく返せるかとか、変なところが気になってしまう。

 でも、わざわざ睡眠方法調べて教えようとしてくれるなんて、親切だな。

「もちろん、嫌じゃなければだけど」
 私が迷っているのを察したのか、桜川くんは遅れてそう付け加えた。

 そこまで気を使ってもらって申し訳ない気持ちの方が大きいけれど、やっぱりまだ私にはハードルが高いみたいだ。

「……ごめん、別に嫌なわけじゃないんだけど」
 私が小さく首を横に振ってそう答えると、桜川くんは肩をすくめるようにして手を振った。

「いいよ、またいつかで。あ、でもわからないことあったら遠慮せずいつでも聞いて」
「ありがとう」
 私は素直にお礼を言った。断ってしまったのにそんな風に言ってくれるなんて、嬉しいけれどよけいに申し訳なさを感じてしまう部分もある。

 もう少し慣れたら、教えても大丈夫って思えるようになるかもしれない。でもひょっとしたら、もう桜川くんからは連絡先交換しようって言ってくれないかもしれないな。そしたら私の方から言わなくちゃいけないんだろうけど、私にできるだろうか。下手したら、卒業するまで言えないかもしれない。

「でも、ちょっとよかったよ」
「何が?」
 桜川くんがほっとしたような表情をする理由がわからなくて、私は首を傾げる。

「高山さんがこの間よりも少し警戒してないような気がする。初めてじゃないから、ちょっとは慣れてくれたのかなって」
 それに返す言葉はなかったけど、私は正直驚いていた。警戒も緊張もなく距離を縮めていたのは桜川くんの方だけで、私はこの間と何も変わっていないとばかり思っていた。でも、私もほんの少しだけ安心して近づけていたのだろうか。自分では、全然気づかなかった。

 ひょっとしたらそれは、桜川くんのおかげなのかもしれない。

「雪穂。ごめん、遅くなって――って、あれ、桜川くん?」
 と、その時、図書室の入口の方から焦った様子で琴美が駆け寄ってきた。

 ほっとしたような、残念なような―いや、ほっとしてるかな。何だか経験したことのないような気持ちに戸惑ってしまっているけど、琴美の顔を見たら落ち着いたから。


「また勉強教えてもらってたんだね」
 帰り道、ふいに琴美がそう言って口を開いた。

「うん、最初はひとりだったんだけど、後から桜川くんが来て」
 ちょっと説明じみているかなと思ったけれど、経緯を話した。居眠りしていたところを声かけられたことは、琴美相手でもさすがに恥ずかしいから内緒にした。

「やっぱり桜川くんってさ、雪穂のこと気にかけてるよね」
 確信めいた口調で、琴美が言った。

「そうかもしれないけど……私が事故で勉強遅れてるのを心配してるだけじゃないかな」
 この間の琴美との電話ではまさかと思って否定したけど、さすがにちょっと特別視されているような気はしてくる。とはいえ桜川くんが私のことを好きかもしれないとまではどうしても思えなくて、たぶん桜川くんは私が思っている以上に世話焼きな人なんだろうと自分を納得させた。

「いーや、私にはわかるよ、雪穂。桜川くんは絶対雪穂のこと好きだと思う」
 私の言葉を押しのけるように強い調子で、ぐいっと琴美が私の方へ身体を乗り出してくるようにして言った。その圧に負けて、せっかく自分を納得させたのに、あのことを思い出してしまった。

「……そういえば、桜川くんに連絡先交換しようって言われた」
「えっ、嘘、聞いてない!」
 琴美が大げさに驚いてみせる。ついさっきのことだし、それはそうでしょ、と心の中で突っ込んだ。

「で、交換したの?」
「……してない。何か、まだ抵抗があって」
「えぇ、すればいいじゃん、連絡先の交換ぐらい」
 なぜか琴美ががっくりと肩を落とすようにしてうなだれる。

「別に、嫌いなわけじゃないんでしょ、桜川くんのこと」
「まぁ、勉強教えてくれるし、親切だと思ってるし、むしろ感謝してるくらいだけど」
「だったら連絡先くらい……って、私が言ってもしょうがないか。まだ話して間もないもんね。雪穂が人と距離詰めるの苦手なのは昔からだし」
 食い下がるようにしながらも、急に思い出したように琴美が勢いを静めた。小さい頃から私は人見知りだったし、よく覚えていないけれど琴美とだって慣れるのにはそれなりの時間がかかったと思う。クラスメイトとだって気軽に話せる人は多くないことを琴美は知っているから、あまり無理にそうしろとは言ってこない。

 私自身、本当は琴美みたいに誰とでも話せるようになりたいし、琴美も私にとってよかれと思ってそう言っているのはわかっているけど。

「ねぇ、雪穂。ちょっとコンビニでも寄っていかない?」
「え? うん、いいよ」
 もうまもなく家に着くというところで、突然琴美が言った。反射的にオッケーしたけれど、私たちの寄り道はたいてい学校近くの場所がほとんどだ。ここまで来て言いだすのは珍しくて、ちょっとだけ驚いた。

「何か買いたいものでもあるの?」
「そうだねー、アイスでも買ってさ、そこの公園で食べない?」
「今から?」
 予想外の提案に思わず聞き返してしまった。確かに夏が近づいてアイスが食べたくなる気温になってきたけど、そんなに急に食べたくなったんだろうか。

 弾むように足早にコンビニへ向かう琴美を追いかけ、一緒にアイスを買った。

 琴美が言った公園は、私たちが小さい頃によく遊んでいた公園だ。学校の帰りにたまに寄り道したりしていたけど、私が事故から目を覚ましてからは初めて足を踏み入れる。だからずいぶん懐かしく感じてしまった。

 その公園の一角にあるベンチに腰を下ろし、買ってきたアイスを食べ始める。冷凍庫から出したばかりのアイスは、まだ汗もかいていなかった。

「んー、おいしい」
 棒に刺さったチョコのアイスを頬張って、琴美が満面の笑みを浮かべる。私はその様子を不思議に思って眺めていたけれど、せっかく買ったものだしと自分のアイスを口に運んだ。

 ひんやりとした冷気が口の中いっぱいに広がる。ゆっくり溶かすと、遅れて甘みとバニラの香りを感じた。甘いものは好きだし、もちろんアイスも大好き。太ると言われてあまり食べ過ぎないようにしているけど、これから本格的に夏になれば、たぶんこうして帰り道に食べることも、家の冷凍庫に常備することも増える。

 でも時折夕暮れの風に吹かれると、ちょっとだけ肌寒く感じることもあった。

「この間さ、ひとりで帰ってる時に、こんな風にアイス食べながら帰ってたんだよね」
 食べかけのアイスを見つめながら、琴美が言った。

「その日って今よりまだちょっと気温も低くて、アイスが妙に冷たく感じたなぁ」
 どこかしみじみと、琴美が思い出すように語る。

「琴美、そんなにアイス好きだったっけ」
 意外だった。私と同じくらい好きだとは思っていたけど、私はさすがに今日より寒かったらまだ食べたいと思わない。

 すると、琴美はふふっと優しく笑った。

「そういうことじゃないよ」
 その言葉に、私は首を傾げる。

「私さ、今まで思い込みで生活してきて、気づかなかったことがあったんだよね。例えば、アイスはうだるくらい暑い日に食べるものだって思ってたんだけど、ふとした気まぐれでちょっと寒いなって感じる日に食べてみたら、おいしさもいつもとちょっとだけ違って感じたりとか」
 私は手に持った自分のアイスに目を向ける。確かに、いつもと少しだけ違うかもしれない。真夏に食べるいつものアイスより、今日のアイスはちょっとだけ冷たさが強くて、ちゃんと溶かさないと甘さが届いてくれないし、よけいに手間がかかる。どっちがおいしいか、とかじゃなくて、普段と違う時期や場面で食べることで、違う面が見えてくるってことなんだと思う。

「あとさ、ほら、ここから見るこの時間の景色」
 琴美が指さした方を見ると、もうまもなく太陽が沈むところだった。昼と夕と夜が絶妙に入り混じって、秒単位でその色合いのバランスを変えていく空。目を離すとすぐに違う景色に変化してしまうその美しい光景に、私は思わず飲み込まれそうになった。

「……きれいだね、ちゃんと見たことなかったけど」
 私は感銘を受けた気持ちを素直に言葉にする。普段、この景色に背を向けるようにして歩く帰り道。この公園に立ち寄ることもなければ、じっくり足を止めて見ることもない空。でもいつもとちょっとだけ違うことは、ほんの少し見方を変えるだけで見えてくるんだ。気づかないだけで、あるいは目をそらしているだけで、本当はすぐそこにあるのに。

「……雪穂がずっと意識が戻らないかもって聞いた時、ほんとにショックで目の前が真っ暗になったよ。まだ雪穂と一緒にやりたいことあるのにって。もっといろんなことやっておけばよかったって」
 その時のことを思い出しているのか、琴美の声が悲痛なものに聞こえた。その想いが私に向けられているものだと思うと、私の胸もぎゅっと締め付けられたみたいに苦しくなる。

「だからね、雪穂が目を覚ました時、決めてたことがあるの。雪穂とまだやってないこと、できてないこといっぱいやるんだって。いつ何が起こってもおかしくない人生だから、きっと後悔しないようになんて無理だけど、躊躇したり後回しにするのはもったいないって」
 琴美の決意は、そのまま私の決意でもあった。いつかいつかって、私も結局後回しにするだけで、自分で一歩踏み出すことや振り返ることを、していなかったから。

「……そうだね。私も、今までやってこなかったこと、いろいろやってみたい」
「あ、もちろん無理にって言ってるわけじゃないよ」
 琴美が慌て気味に、フォローを入れてくる。私は笑ってうなずいた。

「うん、大丈夫、わかってる」
「ねぇ、雪穂」
「何?」
「……生きててよかったね、目覚めてよかったね」
 琴美が噛みしめるようにつぶやいたその言葉を聞いた瞬間、なぜだかわからないけど私の目から涙がこぼれた。悲しいわけでも辛いわけでもない。

 ただ、今この瞬間ここにいることが嬉しかった。この瞬間が私にあることが、嬉しかった。私にはもう何もないはずだったから。それがどんなに寂しいことか、わかってしまったから。何気ない毎日があることは、実はすごく幸せなのかもしれない。

 涙をぬぐいながら、私と琴美は笑い合った。いつのまにか食べかけのアイスが溶けて垂れ始めて、私たちは慌てて残ったアイスを口に運ぶ。

「……何をやろうかな、私。何ができるかな、これから」
 食べ終わったアイスの棒を持て余しながら、私はつぶやく。もっといろんなことをやってみたい、日々を大切に生きたい、と願っている。こんな風に思うのは初めてかもしれない。今までの私にはなかったことだ。

「例えばだけどー―恋とか、してみたらいいんじゃない?」
 いたずらっぽく笑みを浮かべながら琴美が言った。
「えっ?」
「誰かを好きになれたら、毎日の景色が違って見えるかもよ」
「それって、ひょっとして……」
「うん、桜川くんとかどうかなって思って」
 想像通りの名前を出されて、私は顔が熱くなるのを感じた。顔が真っ赤になってしまっているかもしれない。恥ずかしくて、琴美の顔も見れない。

 人と接するのが苦手で、恋なんてこれまで考えたこともなかった。

 恋をしたらこの毎日がもっと色づくのかな。私はもっと、幸せだって思えるようになるのかな。それにしても、琴美はうまく話題をつなげてくるんだから。

 今のままでも十分に幸せだって言えると思う。でも、もう少しだけ両手を大きく広げて、もっと幸せを包み込んでみたい。もう少しだけ、欲張りになってもいいかな。恋というものは、琴美の言うとおり毎日に彩りを添えてくれるものなんだろうか。