私は深い闇の中にいた。

 その場所をそう表現するのは正しいのかどうかわからない。でもうっすらと私の記憶の中にある光景は、自分の姿すら見ることができないその場所は、そう言葉にするしかなかった。

 たぶんあれは――私が眠っていた間のことだ。

 どのくらいそこにいたんだろう。私が目を覚まさなかったのは数ヶ月だから、それと同じ時間なのだろうけど、ほんの一瞬のようでもあり、永遠のようでもあった。

 私はそこにいる間ずっと、不安で怖かったと思う。何も考えることができないで、何も見ることができないで、声を発することも、音を聞くことも、触れられるものも何もなかった。いや、見えないのだから本当に自分の身体があったかどうかもわからないんだ。私はただいつまで続くともわからない闇の中で、いつか自分が意識ごとその闇の中に消えてしまいそうで、不安でしかたなかった。

 目を覚ましてしばらくは、まるで悪い夢だったかのようにその場所のことは忘れていた。まだ記憶の混乱があったのかもしれない。でも、だんだんと頭の中が落ち着いてくるにつれて思い出した。

 私は、何て怖い場所にいたんだろう。あのまま意識が闇の中に溶けてしまったら――果たして自分はどうなってしまうんだろう。自分の身体の感覚を取り戻し、それが震えるほどに怖いことのように思えた。

 しばらくの間、夜は部屋の電気を消しては眠れなかった。そのまま眠りに落ちたら、またあの場所に引き戻されてしまうような気がしてしまって。

 ふいに、まるで記憶をなぞるように、夢の中であの場所にそっくりな闇の中にいることがある。

 飛び起きて吹き出す汗を感じ、ものすごい速さで脈打つ鼓動の音を聞く。身体中を触って、私がちゃんと存在していることを確かめて、ようやくほっと息をつくことができる。

 よかった、ちゃんと私は、ここにいる。

 目が覚めたのは奇跡だと、みんなが言った。

 そうだとしたら、本当に感謝してもしきれないな。