家に帰ると、テーブルの上にホールケーキが置かれていた。私の好きなショートケーキ。生クリームとイチゴの紅白のコントラストがきれいで、見ているだけで幸せになれそう。私の記憶にはケーキの甘い味もちゃんと保存されているようで、もう口の中が想像のケーキで溢れていた。
そしてホールケーキの上には、ローソクとプレート。プレートにはちゃんと、ハッピーバースデイが英語で書かれている。
私が帰ってきたことに気づいて、キッチンの方からお母さんが姿を現した。
「お帰り。そろそろだと思って、出しておいたの」
始発で帰ったからだいぶ早朝だったけど、最寄りの駅についてからお母さんにメッセージを入れておいた。すぐに返信が来て驚いたけど、ひょっとしたらお母さんもずっと起きていたのかな。
「ケーキ、食べる? それともちょっと寝る?」
「眠いけど、食べる。もうこのケーキ見ちゃったら、眠気より食欲の方が勝っちゃった」
私が笑ってそう言うと、お母さんはにこりと笑った。でも、ちょっとだけ疲れたような顔。やっぱり寝てないんだろう。
「飲み物入れるわね。何がいい?」
「オレンジジュース、ある?」
もちろん、とお母さんはそう言ってキッチンに戻った。私はケーキを食べる時の飲み物はできるだけ百パーセントのオレンジジュースと決めている。酸味のあるジュースだと、ケーキの甘さが引き立ってよけいにおいしく感じる気がする。
「はい、どうぞ」
お母さんがグラスに入ったジュースをテーブルの上に置いた。私とお母さんで、ケーキを挟むように向かい合って座る。
「そういえば、このケーキずいぶん大きくない? 今まで、もう少しサイズ小さいやつだったでしょ?」
二人で食べるのにはちょっと大きすぎて、いくらケーキが好きでも食べきれるかどうか自信がなかった。
「そうね……お母さん、間違えちゃったかな。雪穂に、少しでもいっぱい食べてほしくて」
「やだな、お母さん……そんなに食べたら、太っちゃうよ、私。これでも体型気にする女子高生なんだから」
「気にしてたの? 普段、パフェとか食べに行ってるくせに」
「それもそっか」
言いながら、二人で笑った。
たぶん、お母さんは気づいている。私が、決めたこと。私がまたしばらく戻ってこないこと。たぶん、来年の誕生日にはケーキを買ってきても意味がないかもしれないことを。
火のついたローソクを、息で吹き消す。
お母さんが、仰々しいくらいに大きく、拍手して喜んだ。
「誕生日おめでとう、雪穂」
ありがとう、お母さん。
もう気づいてるかもしれないけど、ちゃんと言わなきゃね。またこれからいろいろお世話してもらうし、迷惑かけるし、悲しませちゃうから。
「お母さん、あのね」
「……うん」
「私、行ってくるね。ごめんね」
「うん……」
お母さんはそううなずくことしかできなくて、涙をこらえきれなくて、顔を覆って泣いた。
「……約束して」
しばらく泣き続けた後、お母さんは小さな声で、そう言った。
「絶対、帰ってくるって。そうしたらもう二度と行かないって、約束して」
「……うん、約束する」
私の目からも涙が溢れた。私もお母さんも涙を止めることがどうしてもできなくて、ただ黙々と甘いケーキを頬張り続けた。
そしてホールケーキの上には、ローソクとプレート。プレートにはちゃんと、ハッピーバースデイが英語で書かれている。
私が帰ってきたことに気づいて、キッチンの方からお母さんが姿を現した。
「お帰り。そろそろだと思って、出しておいたの」
始発で帰ったからだいぶ早朝だったけど、最寄りの駅についてからお母さんにメッセージを入れておいた。すぐに返信が来て驚いたけど、ひょっとしたらお母さんもずっと起きていたのかな。
「ケーキ、食べる? それともちょっと寝る?」
「眠いけど、食べる。もうこのケーキ見ちゃったら、眠気より食欲の方が勝っちゃった」
私が笑ってそう言うと、お母さんはにこりと笑った。でも、ちょっとだけ疲れたような顔。やっぱり寝てないんだろう。
「飲み物入れるわね。何がいい?」
「オレンジジュース、ある?」
もちろん、とお母さんはそう言ってキッチンに戻った。私はケーキを食べる時の飲み物はできるだけ百パーセントのオレンジジュースと決めている。酸味のあるジュースだと、ケーキの甘さが引き立ってよけいにおいしく感じる気がする。
「はい、どうぞ」
お母さんがグラスに入ったジュースをテーブルの上に置いた。私とお母さんで、ケーキを挟むように向かい合って座る。
「そういえば、このケーキずいぶん大きくない? 今まで、もう少しサイズ小さいやつだったでしょ?」
二人で食べるのにはちょっと大きすぎて、いくらケーキが好きでも食べきれるかどうか自信がなかった。
「そうね……お母さん、間違えちゃったかな。雪穂に、少しでもいっぱい食べてほしくて」
「やだな、お母さん……そんなに食べたら、太っちゃうよ、私。これでも体型気にする女子高生なんだから」
「気にしてたの? 普段、パフェとか食べに行ってるくせに」
「それもそっか」
言いながら、二人で笑った。
たぶん、お母さんは気づいている。私が、決めたこと。私がまたしばらく戻ってこないこと。たぶん、来年の誕生日にはケーキを買ってきても意味がないかもしれないことを。
火のついたローソクを、息で吹き消す。
お母さんが、仰々しいくらいに大きく、拍手して喜んだ。
「誕生日おめでとう、雪穂」
ありがとう、お母さん。
もう気づいてるかもしれないけど、ちゃんと言わなきゃね。またこれからいろいろお世話してもらうし、迷惑かけるし、悲しませちゃうから。
「お母さん、あのね」
「……うん」
「私、行ってくるね。ごめんね」
「うん……」
お母さんはそううなずくことしかできなくて、涙をこらえきれなくて、顔を覆って泣いた。
「……約束して」
しばらく泣き続けた後、お母さんは小さな声で、そう言った。
「絶対、帰ってくるって。そうしたらもう二度と行かないって、約束して」
「……うん、約束する」
私の目からも涙が溢れた。私もお母さんも涙を止めることがどうしてもできなくて、ただ黙々と甘いケーキを頬張り続けた。


