城館正面の車寄せに王室紋章旗を掲げた四頭立ての四輪馬車が止まっている。

 執事が扉を開けると、まず駆け出してきたのは白い子犬だった。

「まあ、ミルヒ!」

 しゃがんで両手を広げると、キャンキャンとカワイイ声で鳴きながらエレナに飛び込んでくる。

「おや、もう懐いてるとは」

 声のする方を見上げると、そこには黒光りするマントに身を包んだ王子様がいた。

 子犬を抱き上げて、はにかみながらエレナは王子に挨拶した。

「ようこそおこしくださいました」

「なぜ、この犬の名前を?」

「さあ……、真っ白で、毛並みも滑らかですもの」

「なるほど」と、王子がマントから手を差し出した。「あらためまして、ルクスです」

「エレナと申します」と、彼女はその手を取った。

 お互いに見つめ合う。

 自然と顔がほころんでしまう。

 初対面なのに、なぜかそんな気がしない。

「ようこそ、ルクス殿下、我が城へ」と父が挨拶を述べる。

「これは伯爵、お久しぶりでございますね。父もよろしくと申しておりました」

「よろしかったら、庭園の方でお茶をご用意しておりますので、どうぞ」

「ああ、天気もいいですしね。ぜひ」

 王子がエレナと寄り添いながら庭園の方へ歩き出す。

 馬車の旗を見上げながらエレナは思い出し笑いを浮かべた。

 これで全部フラグは回収したかしら?

 そういえば、もう一人。

 白塗りに真っ赤なホッペの妖魔がいたわね。

 まさか……出てこないわよね。

「どうかしましたか?」

 微笑みかける王子を見上げてエレナは微笑み返した。

「いえ、なんでも」

「おや」と、立ち止まった王子がエレナの顎をクイと支える。

 え?

 エレナは思わず目を閉じた。

 王子の口づけは甘い香りがした。

 顔が熱くてはじけてしまいそうだ。

 もう、王子様ったら、大胆なんだから。

 お父様とお母様の見ている前なのに。

 目を開けると、王子がペロリと唇をなめていた。

「ホッペに真っ赤なジャムがついてましたよ」

 まあ!

 わたくしとしたことが。

 侍女があわててハンカチを持ってくる。

 それを受け取って顔を拭きながら、エレナはつい声に出してしまった。

「でも、ずいぶんやり方が強引すぎません?」

「これは失礼」と、王子が頭を下げる。

「あ、いえ、そうではなくて。あまりにも急なハッピーエンドだったもので」

 王子がエレナを見つめて微笑む。

「いいではありませんか。僕も、とても幸せですよ」

「はい」

 素敵な笑顔に胸がときめく。

 いろんなことがあったけど、もうすべて忘れてしまいましたわ。

 でも、こんな強引なオチでみんな納得するのかしら。

 まあ、いいわよね。

 なんていったって、この物語の主人公はこのわたくしなんですもの。

 結末は最初から決まってたんですから。

 お姫様と王子様は幸せに暮らしましたとさ。

 めでたし、めでたし、ですわ。