人垣をかき分けながら衛兵たちがやってきた。
「王子様、ご無事でございましたか」
どうやら、本当にこの子が王子らしい。
幼児はすっかりご機嫌で、カミラの胸の中で指をくわえながらうっとりと目を閉じている。
エレナは彼女にたずねた。
「どういうことですの。この子が王子様ですの?」
「ええ」と、カミラがクィと顎を上げながら答えた。「ルミネオン王国第五王子クラクス様ですわ。あなたの婚約者なのに、そんなこともご存じないなんて」
第五王子?
王子様って、将来の国王のはずよね。
でも、それは長男一人だけで、次男以下は違うってこと?
じゃあ、この婚姻で、わたくしの立場はどうなるというのでしょう。
だが、状況を理解する前に、いつのまにかエレナは衛兵に両腕を捕まれていた。
彼女の正面に威厳のあるひげを生やした片眼鏡の男が立った。
「貴族の御令嬢ともあろう者が王子殿下をご存知ないとは。もしや偽者ではあるまいな」
「偽者!? このわたくしが?」
ちょっとミリアはどこなの?
いったいどこでなにをやってるのよ。
本当に、役に立たないんだから。
片眼鏡の老人がエレナに詰め寄る。
「偽者ではないというのであれば、この私が何者か、ご存知であろうな」
は?
誰、このおじさん?
今日初めて会ったのに、分かるわけないじゃない。
本来なら、この会場に着いたときにお披露目と紹介を受けるはずであった。
だが、役に立たない侍女のせいで、衣装を酷評され、嘲笑されてしまったのだ。
あげくに偽者扱いとは、なんという屈辱だろうか。
「失礼ながら存じ上げませんが、わたくしはエレナ。シュクルテル伯爵家のエレナでございます。手をお離しください」
カミラが王子を抱きながら冷淡に見下ろしている。
「まずは王子様にお詫びを申し上げるのが筋ではございませんか。あなたが蹴飛ばしたのですから」
彼女の言葉を聞いて片眼鏡の老人の顔が真っ赤になった。
「なんと、王子殿下を蹴飛ばすなど、とんでもないことじゃ。これは国家反逆罪ですぞ」
反逆罪ですって!?
なんて大げさな。
しかし、両腕をつかんでいた屈強な衛兵たちは、エレナを跪かせてさらに頭を床に押しつけようとする。
ちょっと、なんですの。
おやめなさいな。
こんな屈辱を受けるいわれはない。
エレナは抵抗し、膝をつきつつもかろうじて頭を上げた。
「お待ちください。何かの間違いです。本日、父は病で不在ではございますが、わたくしはまぎれもなくシュクルテル伯爵家のエレナ、エレナ・エル・パトラ・シュクルテルでございます」
「わしが宮廷大臣であることも知らぬような小娘が伯爵令嬢を名乗る資格などあるまい」
大臣?
このおじさんが?
どうして誰も教えてくれないのよ。
周囲を見上げても、カミラたちは口元に冷笑を浮かべながら、屈辱的な格好をしているエレナの姿を見下して喜んでいるばかりだった。
味方など誰もいない。
頼りになるのは侍女だけなのに、やはり姿を見せない。
ミリアはいったいどこなの?
こんなときこそ主人の窮地を救うべきじゃないの。
「王子様、ご無事でございましたか」
どうやら、本当にこの子が王子らしい。
幼児はすっかりご機嫌で、カミラの胸の中で指をくわえながらうっとりと目を閉じている。
エレナは彼女にたずねた。
「どういうことですの。この子が王子様ですの?」
「ええ」と、カミラがクィと顎を上げながら答えた。「ルミネオン王国第五王子クラクス様ですわ。あなたの婚約者なのに、そんなこともご存じないなんて」
第五王子?
王子様って、将来の国王のはずよね。
でも、それは長男一人だけで、次男以下は違うってこと?
じゃあ、この婚姻で、わたくしの立場はどうなるというのでしょう。
だが、状況を理解する前に、いつのまにかエレナは衛兵に両腕を捕まれていた。
彼女の正面に威厳のあるひげを生やした片眼鏡の男が立った。
「貴族の御令嬢ともあろう者が王子殿下をご存知ないとは。もしや偽者ではあるまいな」
「偽者!? このわたくしが?」
ちょっとミリアはどこなの?
いったいどこでなにをやってるのよ。
本当に、役に立たないんだから。
片眼鏡の老人がエレナに詰め寄る。
「偽者ではないというのであれば、この私が何者か、ご存知であろうな」
は?
誰、このおじさん?
今日初めて会ったのに、分かるわけないじゃない。
本来なら、この会場に着いたときにお披露目と紹介を受けるはずであった。
だが、役に立たない侍女のせいで、衣装を酷評され、嘲笑されてしまったのだ。
あげくに偽者扱いとは、なんという屈辱だろうか。
「失礼ながら存じ上げませんが、わたくしはエレナ。シュクルテル伯爵家のエレナでございます。手をお離しください」
カミラが王子を抱きながら冷淡に見下ろしている。
「まずは王子様にお詫びを申し上げるのが筋ではございませんか。あなたが蹴飛ばしたのですから」
彼女の言葉を聞いて片眼鏡の老人の顔が真っ赤になった。
「なんと、王子殿下を蹴飛ばすなど、とんでもないことじゃ。これは国家反逆罪ですぞ」
反逆罪ですって!?
なんて大げさな。
しかし、両腕をつかんでいた屈強な衛兵たちは、エレナを跪かせてさらに頭を床に押しつけようとする。
ちょっと、なんですの。
おやめなさいな。
こんな屈辱を受けるいわれはない。
エレナは抵抗し、膝をつきつつもかろうじて頭を上げた。
「お待ちください。何かの間違いです。本日、父は病で不在ではございますが、わたくしはまぎれもなくシュクルテル伯爵家のエレナ、エレナ・エル・パトラ・シュクルテルでございます」
「わしが宮廷大臣であることも知らぬような小娘が伯爵令嬢を名乗る資格などあるまい」
大臣?
このおじさんが?
どうして誰も教えてくれないのよ。
周囲を見上げても、カミラたちは口元に冷笑を浮かべながら、屈辱的な格好をしているエレナの姿を見下して喜んでいるばかりだった。
味方など誰もいない。
頼りになるのは侍女だけなのに、やはり姿を見せない。
ミリアはいったいどこなの?
こんなときこそ主人の窮地を救うべきじゃないの。