目が覚めると、そこは天蓋付きのベッドだった。

 窓から差し込む光が部屋全体を淡く照らしている。

 エレナは起き上がって窓辺に歩み寄った。

 窓を開けると、雲一つない青空が広がっている。

 城下の村から教会の鐘の音がのどかに聞こえてくる。

 小鳥たちの群れが飛び立ち、まぶしい空の彼方へ消えていく。

 城館の屋根が朝日を反射して輝いている。

 ここは、いったい……。

 あれはいったいなんだったのだろうか。

 寝起きの目をしばたかせながらエレナはしばらく光に満ちた世界を眺めていた。

 静かなノックの後に、すぐ扉が開く。

 入り込んできた侍女のミリアがエレナの姿を見て目を丸くしている。

「まあ、お嬢様、お目覚めでございましたか。失礼いたしました。起きていらっしゃるとは思いませんでしたので」

「たまにはわたくしだって早起きすることくらいあるでしょ」

「さようでございますか」と、侍女が無関心な様子で、軽やかな布地でできた青いドレスを差し出す。「では、お着替えをなさってくださいな」

 エレナがドレスを受け取ると、侍女が寝間着をたたみながら小声でたずねてきた。

「おねしょはなさっていませんか」

 思わずハッとして、下半身を確かめてしまった。

「ちょっと、十八にもなって、するわけないでしょう」

 侍女が無表情につぶやく。

「昔はよく奥様に知られぬように寝床を交換したものでございます。今でも懐かしく思います」

 ドレスをかぶって顔を出したエレナは侍女に顔を寄せながらささやいた。

「ねえミリア、あなた、本当は公爵令嬢だなんてことはないわよね」

「はあ?」と、侍女が当惑気味に首をかしげている。「何を急に。わたくしはご城下の村に捨てられていた身でございます。それを引き取ってお育てくださった奥様のご恩は、一生忘れることはございません。わたくしの使命は、お嬢様を奥様のような立派な淑女にお育てすることでございます」

 やっぱり、そうよね。

 それは今までにさんざん聞かされてきた話だった。

 エレナが怠けたり面倒くさがるようなことがあると、いつも必ずその話で母を見習えとたしなめられてきたのだ。

「ですから……」と、ミリアが言葉を継いだ。「さっさと着替えてお支度をなさってくださいな」

 これが夢……なの?

 ……ではないようだ。

 えっと、奇妙な夢を見ていた、ということかしら?

 どっちがどっちなのだろうか。