すると、一条の光が闇に向かって伸びていき、それに呼応するかのように獣の遠吠えが聞こえてきた。

 ウォオオオオオン!

 服を剥ぎ取ろうとしていた男たちがぎょっとした表情で手を止める。

「な、なんだよ?」

 暗闇の中から足音が迫ってくる。

 男たちは迫り来る者の正体を見極めようとあたりを見回しているが、足音は四方八方から聞こえてくる。

 右かと思えば左、前と思えば後ろ、方角は変わっても足音はどんどん迫ってくる。

 変幻自在な足音に戸惑い、男たちは粗末なものをぶら下げたまま呆然と立ち上がった。

 ガウゥッ!

 闇の中から白い塊が飛びかかってくる。

 前足で二人同時に押し倒したかと思うと、あっという間に男たちの下半身めがけて食らいつく。

「うわぁっ!」

「な、なんだコイツ!」

 真っ白な毛を逆立てた巨大なオオカミだ。

 鋭い爪で男たちの首筋を引っ掻き、牙を突き刺すと、魔物は熊のような巨体をそらせて闇の中へ軽々と男たちを放り投げた。

 闇の奥で男たちのうめき声がしたとたん、それをめがけて別の獣たちが襲いかかる。

 パクリ、ガフッ……。

 ゴリッと骨の砕ける音を最後に二人の声は聞こえなくなった。

「おまえは、ミルヒ……」

 エレナは白いオオカミに手を差し伸べた。

 すっかり立派になって。

 オオカミが頭を下げながらエレナの元へと歩み寄ってくる。

 頭をなでてやると、逆立っていた毛はふわふわと柔らかく、あたたかくエレナの手を包み込む。

「よしよし、ありがとう」

 助けに戻ってくれた我が子を思い切り抱きしめてやると、クゥンと甘えた声を上げてペロペロとエレナの頬をなめた。

 ウォオオオオオン!

 仲間の獣たちが呼んでいる。

 耳を立てて、ミルヒが彼女の腕からするりと抜け出す。

 一度振り向いた彼にエレナはそっと手を振った。

「お行きなさい」

 白い獣は軽やかに足を踏み出すと、あっという間に闇の中へと消えていった。

 後に残されたエレナとミリアはその残像を二人並んで見送っていた。

「お嬢様、ご無事でしたか」

 声が震えているミリアにエレナは微笑みを返した。

「ええ、いろんなことがありましたけどね」

 憎まれていたとはいえ、やはり会えてうれしい。

「あなたこそ、王妃になったのではありませんでしたの?」

「それが、私にもいろいろありまして……」

 ミリアはあの一連の出来事の後に起きた顛末を話してくれた。