そんなことをしても苦しみが増すばかりでここでは何の意味もないことは分かっていた。

 ならばいっそのこと、木になる青い実でも食べた方がいいのかもしれない。
 もう、どっちでもいい。

 エレナがのどにガラス片を突き立てようとしたそのときだった。

 屋敷の外から悲鳴が聞こえてきた。

 若い女の悲鳴だ。

 崩れた鎧戸の隙間から外を見ても、暗闇の様子は分からない。

 ただ、悲鳴は確実に聞こえた。

 ひどく懐かしい声のような気がする。

 エレナはガラスの破片を握りしめたまま屋敷を飛び出した。

 また裏切られるのではないか。

 また絶望させられるのではないか。

 だからといって、行かないわけにはいかない。

 自分にとって大切な人が助けを求めているのなら。

 自分にできることなど何もないかもしれない。

 だけど、行かなければならないのだ。

 キャァアアアアア!

 聞こえる。

 はっきりと聞こえてくる。

 エレナは悲鳴のする方へ急いだ。

 フィアトルクス!

 光あれ!

 手にしたガラスが輝き、道を照らす。

 光に導かれてエレナは駆けつけた。

「大丈夫ですか!」

「お、お嬢様!」

 間違いない。

 そこにいるのはミリアだった。

 王宮で自分を絶望の淵に追い込んで冥界へと突き落としたあの侍女だった。

 だが、そんな恨みなど、どうでもいいことだった。

「ミリア、いったいどうしたというのですか」

「あ、あれ……」

 震える手で指をさす方に、二人の男たちの姿があった。

 その二人にも見覚えがあった。

「おまえたちは、あのときの!」

 それは城の地下牢でエレナから指輪をだまし取った二人組だった。

「お、こりゃ、あんときのお嬢様じゃねえかよ」

「へへへ、ちょうどいいじゃねえか」

 ズボンを下ろした男たち二人がそれぞれ彼女たちに襲いかかる。

「ああ、お嬢様!」

「おまえたち、何をするのです。おやめなさい」

 二人にのしかかった男たちが顔を見合わせて下品な笑みを浮かべる。

「ずいぶんお上品だねえ。そそるじゃねえかよ」

「『何をするのです』だとよ。お望み通り、たっぷりと教えてやろうじゃねえか」

「たっぷりってよお、ケケケ、おめえ、いつも早く終わっちまうじゃねえかよ」

「うっせえ、ほっとけ馬鹿野郎」

 怒鳴り散らす男の隙をついてエレナはガラス片で抵抗しようとした。

 しかし、あと少しのところで腕をつかまれてしまった。

「ケッ、元気のいいお嬢ちゃんじゃねえかよ」

 奪い取ったガラスの破片を男が闇へ放り投げる。

 ガラスの破片はキラキラと輝きを放ちながら宙を舞う。