エレナの指でサファイアの光が強まる。

 キッチン全体が青い光に包まれる。

 頭がズキズキと痛み出す。

 変な鼻歌も、耳障りなおしゃべりも、思い出そうとするのになぜか記憶から消されていく。

 覚えていることを思い出したとたんに、書き留めたメモ用紙を破り捨てられるようにきれいさっぱり消えてしまう。

 エレナの体の中がうずき始める。

 体が震え、火照る。

 あたしはあんただし、あんたはあたしだし……。

 なぜその言葉だけは消えないのですか。

 あんたはあたしだし、あたしはあんただからだよ。

 わたくしが妖魔だと言うのですか。

 体がうずき、火照る。

 自分を抱きしめてしまわないと弾け飛んでしまいそうだ。

 あんたはあたし。

 はじけちゃえばいいじゃん。

 あんたは妖魔。

 冥界の帝王だってたぶらかしちゃう淫靡なサキュバスでしょぉ。

 はじけちゃえばいいんじゃなーい?

 いいじゃん、いいじゃん。

 あんたはあたしなんだもん。

「ち、違います」

 ちがくないしぃ。

 分かってるくせにぃ。

 ホントわぁ、もっと愛されたくってぇ、あれもこれもしてほしぃのにぃ。

 おねだりしちゃえばぁ?

 ほしくてしょうがないんでしょぉ。

「いいえ、違います」

 うそぉ、隠したってダメぇー。

 だってぇ、あたしはあんただもん。

 ぜーんぶ、分かっちゃってるんだからぁ。

「違うと言っているではありませんか」

 よろめきそうになる気持ちを奮い立たせて言い返してみても、その言葉をぶつける相手はもうどこにもいない。

 自分自身の言葉だけがただ自分に突き刺さる。

 むしょうにのどが渇く。

 火照った体の渇望に苦しみながらエレナは屋敷の外へ出た。

 体が赤い実を欲している。

 あの赤い実を食べれば楽になる。

 のどの渇きを癒やすために、エレナは赤い実がなる木へと歩み寄っていった。

 ちょうどうまいぐあいに屋敷を取り囲む木々の下に実が転がっている。

 でも、それは青い実だった。

 それは永遠に苦しむ毒の実だ。

 甘美な快楽をもたらすのは赤い実だ。

 木になっている熟した赤い実に向かって、エレナは震える腕を伸ばした。