……うふふ。
安堵したエレナが振り向くと、男の子はへたり込んで泣きじゃくっていた。
「こわいよぉ、こわいよぅ」
「もう大丈夫ですよ」とエレナが駆け寄ると、男の子がもっとおびえ出す。
「こわいよぉ」
「もう大丈夫ですよ。こわい獣はいなくなりましたからね」
「ママこわいよぅ」
どうやら獣ではなく、エレナの剣幕の方が恐ろしかったらしい。
抱きしめてやろうとすると体をよじって逃げ出そうとする。
そんなに怖がらせてしまったのだろうか。
エレナは反省しながらも、自分の力に少し自信を持った。
自分は何もできないわけではないのだ。
ただ、その力と勇気を正しく使えば良いだけだ。
エレナはあらためて優しく語りかけた。
「ごめんなさいね。あんな乱暴な言葉を言うおねえちゃんはいけませんよね。よしよし、大丈夫ですよ。もうこわくありませんよ」
男の子はようやく泣き止んでエレナに抱きついてきた。
「そう。こわくありませんよ。わたくしも、もうあんな乱暴なことは言いませんからね」
「こわくないの、ママ?」
わたくしはママではありませんよ、と言おうとしてエレナは思いとどまった。
ママであるかどうかはどちらでもいいことだ。
ママと呼びたければそうさせてやればいい。
抱きしめてやっていた男の子がエレナの腕の中でポツリとつぶやく。
「ママはぶたないの?」
「どうして?」
「前のママは僕がお漏らしするといつもぶったよ。悪い子だって」
エレナはそっと男の子の頭をなでてやった。
「ぶったりしませんよ。ギュッてしてあげますよ」
そういえば、男の子の服が濡れたままだ。
早く着替えさせてやらなければ。
エレナは男の子を抱きながら立ち上がろうとした。
しかし、まだ小さいとはいえ、それなりに重たい。
今まで、こんな重たいものを持ったことはなかった。
エレナはいったん男の子を離して、背中を向けてしゃがんだ。
「おんぶしてあげましょう」
男の子は素直に背中に乗ってくる。
手で支えてやると、お尻が冷たくなっていた。
「冷たくて気持ちが悪いでしょう」
背中で男の子がうなずく。
「おうちに帰って着替えましょうね」
男の子がもう一度うなずく。
「ママ、ごめんね」
「いいのですよ」
「ママはどうして怒らないの?」
「ママだからですよ」
「ママはいつも僕のこと怒ってぶってたよ」
まあ、なんてかわいそうなんでしょう。
エレナはミリアのことを思い出していた。
おねしょをしても、ミリアは叱ることもなく、文句も言わずに処理してくれていた。
少なくとも、ぶたれたことはない。
それがたとえ主人である貴族の令嬢と侍女の関係とはいえ、感謝すべきことなのではないだろうかと、今さらながらに気がついた。
もっと感謝の気持ちを伝えるべきではなかったのか。
エレナはミリアのために祝福の祈りを唱えた。
安堵したエレナが振り向くと、男の子はへたり込んで泣きじゃくっていた。
「こわいよぉ、こわいよぅ」
「もう大丈夫ですよ」とエレナが駆け寄ると、男の子がもっとおびえ出す。
「こわいよぉ」
「もう大丈夫ですよ。こわい獣はいなくなりましたからね」
「ママこわいよぅ」
どうやら獣ではなく、エレナの剣幕の方が恐ろしかったらしい。
抱きしめてやろうとすると体をよじって逃げ出そうとする。
そんなに怖がらせてしまったのだろうか。
エレナは反省しながらも、自分の力に少し自信を持った。
自分は何もできないわけではないのだ。
ただ、その力と勇気を正しく使えば良いだけだ。
エレナはあらためて優しく語りかけた。
「ごめんなさいね。あんな乱暴な言葉を言うおねえちゃんはいけませんよね。よしよし、大丈夫ですよ。もうこわくありませんよ」
男の子はようやく泣き止んでエレナに抱きついてきた。
「そう。こわくありませんよ。わたくしも、もうあんな乱暴なことは言いませんからね」
「こわくないの、ママ?」
わたくしはママではありませんよ、と言おうとしてエレナは思いとどまった。
ママであるかどうかはどちらでもいいことだ。
ママと呼びたければそうさせてやればいい。
抱きしめてやっていた男の子がエレナの腕の中でポツリとつぶやく。
「ママはぶたないの?」
「どうして?」
「前のママは僕がお漏らしするといつもぶったよ。悪い子だって」
エレナはそっと男の子の頭をなでてやった。
「ぶったりしませんよ。ギュッてしてあげますよ」
そういえば、男の子の服が濡れたままだ。
早く着替えさせてやらなければ。
エレナは男の子を抱きながら立ち上がろうとした。
しかし、まだ小さいとはいえ、それなりに重たい。
今まで、こんな重たいものを持ったことはなかった。
エレナはいったん男の子を離して、背中を向けてしゃがんだ。
「おんぶしてあげましょう」
男の子は素直に背中に乗ってくる。
手で支えてやると、お尻が冷たくなっていた。
「冷たくて気持ちが悪いでしょう」
背中で男の子がうなずく。
「おうちに帰って着替えましょうね」
男の子がもう一度うなずく。
「ママ、ごめんね」
「いいのですよ」
「ママはどうして怒らないの?」
「ママだからですよ」
「ママはいつも僕のこと怒ってぶってたよ」
まあ、なんてかわいそうなんでしょう。
エレナはミリアのことを思い出していた。
おねしょをしても、ミリアは叱ることもなく、文句も言わずに処理してくれていた。
少なくとも、ぶたれたことはない。
それがたとえ主人である貴族の令嬢と侍女の関係とはいえ、感謝すべきことなのではないだろうかと、今さらながらに気がついた。
もっと感謝の気持ちを伝えるべきではなかったのか。
エレナはミリアのために祝福の祈りを唱えた。