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 屋敷を出てみたところで、周囲は暗黒に包まれていて何も見えないし、どこにも行けない。

『光あれ』と唱えてみても、自分の手元が明るくなるだけで、やはりまわりの様子はまったく分からない。

 エレナはこれまでも家の外の様子を見ようとしたことがあったが、いつもこんな調子であきらめていたのだった。

 でも、今度ばかりはあの家にはいたくなかった。

 あんな妖魔が自分の代わりに愛されるなんて納得できない。

 手探りで暗闇の中を歩く。

 ルクスが言っていたことを思い出す。

 冥界には獣がいて、堕ちてきた罪人を食べる。

 それが魂の浄化なのだと。

 ならば、いっそのこと食われてしまった方がましだ。

 自分も浄化してほしい。

 もうこんなところにいたくはない。

 しかし、そんな一時の激情を吹き飛ばすようなことが起きた。

 ウオオオオォーン!

「な、何ですの?」

 暗闇のどこからか獣の遠吠えが聞こえてくる。

 ウオオオオォーン!

 恐怖で思わず体が震え出す。

 食われてしまえばいいなどと思っていた自分を呪いたくなる。

 どこにいるのだろうか。

 何が吠えているのだろうか。

 オオカミか野犬か、はたまた見知らぬ魔物だろうか。

 と、また暗闇から音が聞こえてきた。

 ガリッ!

 何の音ですか?

 バキボキッ!

 パクッ!

 獣が獲物を食らう音だ。

 骨を砕く音。

 肉を引きちぎる音。

 顔を天に向け、喉の奥へと肉を送り込んでいく音まで、まるで耳元で聞かされているようにくっきりと聞こえる。

 そんな……。

 すぐ近くだというのですか。

 エレナは思わずルクスの助けを求めてしまった。

 いつでもどこからでも駆けつけると言っていたはずだ。

 なのに、ルクスは姿を見せない。

 ルクス、お願いです。

 わたくしが愚かでした。

 助けに来て。

 私を屋敷に連れ帰ってくださいな。

 なのに彼は姿を現さない。

「ルクス! ルクス! わたくしはここです。お願いです。助けに来て!」

 恐怖で声がかすれてしまうが、エレナは必死に彼を呼んだ。