相変わらず料理そのものはとてもおいしそうだ。

「ねえ、ちょっと、聞いてる?」

 聞いてません。

「でね、もうアソコがジンジンヒリヒリしちゃって大変なのよ、もう」

 うふふと笑い出したかと思うと、妖魔が声を潜める。

「ねえ、アソコってどこだか分かる?」

 エレナは静かに答えた。

「唇ですか」

「セイカーイ! えー、なんで分かるの?」

「だって、真っ赤に腫れてますもの」

「やだあ、もう、恥ずかしいー。そうなのぉ、チューしすぎちゃってぇ、たいへーん。もうねぇ、帝王様、あたしにギュッとしがみついて離してくれないんだもーん。ていうか、あたしも離さないしぃ」

 相手にするのも馬鹿馬鹿しい。

 こんな妖魔と遊んでいる冥界の帝王というのも軽蔑の対象でしかない。

「んー、まあ、いっかな」と、サキュバスが調理の手を止めた。「できたから、帝王様呼んでこよっと」

 あんな男の顔など見たくもない。

 エレナはサキュバスに続いてキッチンを出て、またホールの掃除に取りかかることにした。

 キャッキャッと猿のような叫び声を上げながら階段を駆け上がっていくサキュバスが廊下から彼のことを呼んでいる。

「帝王様ぁ、お食事の用意ができましたよーん。やだあ、『オレが食べたいのはおまえ』って? あたしじゃないですからぁ。シチューですぅ。って、チューがいい? もう、今からですかぁ? いいけどぉ」

 ああ、もう。

 馬鹿じゃないの、馬鹿バカ馬鹿!

 二人とも箒でたたき出してやりたい。

 でもここはルクスの屋敷だ。

 いいですわ!

 こうなったら、わたくしの方が出て行きますわ。

 あんな男に心を委ねようとしたわたくしが愚かでした。

 エレナは箒を投げ出して屋敷を飛び出した。