サキュバスが手招きしている。
「ねえ、ちょっと味見してみない?」
エレナは歩み寄って、皿によそられたいい香りの料理に口をつけた。
「あら、まあ」
思わず声を上げて驚いてしまった。
お城でよく食べていたシチューにそっくりの味だったのだ。
「どうして、これを?」
「だから、あたしはあんただから、あんたの好きな物は何でも分かるんだってば」
「あなたはお料理が上手なのですね」
「えー、そう、上手かな? うれしいこといってくれるじゃん。ていうか、あんたもやってみれば?」
「やったことがありませんわ」
「あたしなんだから、できるんじゃない? やってみればいいじゃん。あたしが教えてあげよっか」
やってみて、うまくいけばうれしいのだろうけど、それはそれで、やっぱり似てるじゃんと言われるのはあまりうれしくない。
「まあ、そのうちお願いするかもしれません。それより、これはなんのお料理ですの?」
「ワインで煮込んだシチューだよ」
ミリアのレシピだ。
「いい感じにできたから、一緒に食べようよ」
「よろしいのですか?」
「当たり前じゃん。あんたはあたしなんだし。遠慮しなくていいじゃん」
なんでもそれだ。
ルクスといい、このサキュバスといい、冥界の者たちは単純な理屈で動いているらしい。
とはいえ、久しぶりに人間らしい食事にありつけそうなので断る理由はなかった。
「では、いただきましょうか」
「えへへ、そうこなくっちゃ」
皿に大きな肉の塊をごろりとよそってくれる。
サキュバスも一緒に食卓につく。
「おかわりいっぱいあるから、じゃんじゃん食べてね」
「いただきます」
皿からたちのぼる香りが食欲をそそる。
さっそく一口いただくと、ワインをベースに果物のような甘さと香辛料がきいている。
ああ、懐かしい。
これは、ミリアが作ってくれたものとほとんど同じではありませんか。
よく煮込まれた肉はほろりととろけるようで味わい深い。
いまいち気の合わない相手だと思っていたけれども、料理の腕が素晴らしいのは認めるしかなかった。
ところが、テーブルの反対側でサキュバスも食事を始めると、エレナの手は止まってしまった。
ぴちゃぺちゃ。
ジュルジュルル。
サキュバスはスプーンを使わず、皿を持ち上げて直接口をつけてずるずると音を立てながらシチューを流し込んでいる。
口の中に入ってきた肉片を獣のようにぺちゃくちゃと音を立てながら咀嚼する。
村のお祭りで調子に乗りすぎた酔っ払いみたいに下品な食べ方だ。
「あの、すみませんが、もう少し……その、お静かにお召し上がりになれませんか」
皿に残った肉を指でかき集めて口に放り込んだサキュバスはきょとんとした顔でエレナを見た。
「なんで?」
「マナーというものです」
「おいしければ何でも良くない?」
「相手を不快にさせない思いやりも大事ですよ」
「いいじゃん。どうせあたしはあんたなんだし」
「ですから、わたくしはそのような食べ方をしません」
「じゃあ、似てなくて良かったじゃん。あんたもその方がいいんでしょ」
似ていても似てなくても、どちらも話にならない。
エレナはため息をつくしかなかった。
「ねえ、ちょっと味見してみない?」
エレナは歩み寄って、皿によそられたいい香りの料理に口をつけた。
「あら、まあ」
思わず声を上げて驚いてしまった。
お城でよく食べていたシチューにそっくりの味だったのだ。
「どうして、これを?」
「だから、あたしはあんただから、あんたの好きな物は何でも分かるんだってば」
「あなたはお料理が上手なのですね」
「えー、そう、上手かな? うれしいこといってくれるじゃん。ていうか、あんたもやってみれば?」
「やったことがありませんわ」
「あたしなんだから、できるんじゃない? やってみればいいじゃん。あたしが教えてあげよっか」
やってみて、うまくいけばうれしいのだろうけど、それはそれで、やっぱり似てるじゃんと言われるのはあまりうれしくない。
「まあ、そのうちお願いするかもしれません。それより、これはなんのお料理ですの?」
「ワインで煮込んだシチューだよ」
ミリアのレシピだ。
「いい感じにできたから、一緒に食べようよ」
「よろしいのですか?」
「当たり前じゃん。あんたはあたしなんだし。遠慮しなくていいじゃん」
なんでもそれだ。
ルクスといい、このサキュバスといい、冥界の者たちは単純な理屈で動いているらしい。
とはいえ、久しぶりに人間らしい食事にありつけそうなので断る理由はなかった。
「では、いただきましょうか」
「えへへ、そうこなくっちゃ」
皿に大きな肉の塊をごろりとよそってくれる。
サキュバスも一緒に食卓につく。
「おかわりいっぱいあるから、じゃんじゃん食べてね」
「いただきます」
皿からたちのぼる香りが食欲をそそる。
さっそく一口いただくと、ワインをベースに果物のような甘さと香辛料がきいている。
ああ、懐かしい。
これは、ミリアが作ってくれたものとほとんど同じではありませんか。
よく煮込まれた肉はほろりととろけるようで味わい深い。
いまいち気の合わない相手だと思っていたけれども、料理の腕が素晴らしいのは認めるしかなかった。
ところが、テーブルの反対側でサキュバスも食事を始めると、エレナの手は止まってしまった。
ぴちゃぺちゃ。
ジュルジュルル。
サキュバスはスプーンを使わず、皿を持ち上げて直接口をつけてずるずると音を立てながらシチューを流し込んでいる。
口の中に入ってきた肉片を獣のようにぺちゃくちゃと音を立てながら咀嚼する。
村のお祭りで調子に乗りすぎた酔っ払いみたいに下品な食べ方だ。
「あの、すみませんが、もう少し……その、お静かにお召し上がりになれませんか」
皿に残った肉を指でかき集めて口に放り込んだサキュバスはきょとんとした顔でエレナを見た。
「なんで?」
「マナーというものです」
「おいしければ何でも良くない?」
「相手を不快にさせない思いやりも大事ですよ」
「いいじゃん。どうせあたしはあんたなんだし」
「ですから、わたくしはそのような食べ方をしません」
「じゃあ、似てなくて良かったじゃん。あんたもその方がいいんでしょ」
似ていても似てなくても、どちらも話にならない。
エレナはため息をつくしかなかった。