「べつにいいじゃん。どうせ、あたしはあんただし、あんたはあたしなんだし」

「またそれですか。わたくしとあなたは違うと言っているではありませんか。」

「みんなそう言うのよね。鏡に映る自分を見て、あたしはこんなんじゃないとかって。なんかチョー失礼じゃない?」

「でも、顔が全然違いますし……」

「体も違うもんね。ぷークスクス」

 言葉にかぶせるように笑われてしまう。

 どうも弱点を握られてしまったらしい。

 悔しいけど言い返せない。

「う、歌だってめちゃくちゃじゃありませんか」

「音痴なのはあんたじゃん。あたしはあんただし、あんたはあたしなんだから」

 確かに舞踏は苦手だし、歌も得意ではない。

 自分も庭園を散策中に同じように鼻歌を歌っていたら、『蜂の巣でもあるのかと思いました』とミリアに笑われたこともある。

 何かを言おうとするとすべて自分に返ってきてしまう。

 なんとも不毛な言い争いだ。

 好きな相手ではないが、ここで暮らしていく仲間なのかもしれないのだから、ならばむしろよく知ってみたほうがいいのではないか。

 エレナはあらためて自己紹介をしてみた。

「あなた、お名前は? わたくしはエレナです」

「知ってるし」

「で、あなたは?」

「あたしは名前なんかないよ。あんただから」

 まさか、エレナと名乗るつもりなのだろうか。

「まあ、サキュバスだけどね。呼び名じゃないけど」

「なんですか、それは?」

「いやらしいことが大好きな妖魔ってこと。欲望の塊ね」

「そんなあなたが私に似ているわけないじゃありませんか」

「だから、あんたはそれを認めようとしてないだけで、あたしはあんたなの」

 まだ恋もしたことがないというのに、一緒にされても困ってしまう。

 と、そう思ったときに、エレナはこの先も恋なんかできないことに気づいてしまった。

 冥界にはそもそも相手がいないのだ。

 ルクスは……どうだろう。

 せめて人ならいいのだけど。

 悪者ではないことは分かっているのに、正体を知ってしまっている以上、何かをあきらめないと彼のことを受け入れられないような気がする。