そんな彼女の手を取って、ルクスが闇の中で青く輝く指輪をはめた。

「おまえにこれをやろう」

「これは……」

 サファイアの指輪だった。

 地下牢で男たちに奪われた母の形見の指輪に違いない。

「これをどこで?」

「地上で男どもが売り払おうとしていたのでな。俺が買い取った」

「まあ、そうだったのですか。ありがとうございます」

 冥界では何の価値もないものかもしれないが、エレナにとっては心の支えとしては十分なものだった。

「それにしても、あの者たちにお金を払うのはもったいなかったのではありませんか」

 ルクスはエレナの手をそっと離した。

「俺は金など持っていないぞ」

「どういうことですか?」

「そこらへんに落ちている石ころをやつらが勝手に金だと思い込んだだけだ」

「まあ、それは魔法か何かですか」

「人の欲望が自分自身を惑わせるだけだ。人は価値があるものを望むのではなく、それにふさわしいものを望むのだ。やつらにはその指輪より、ただの石ころの方が似合っていたというわけだ」

 なんだか難しい話でよく分からないし、あの男たちには気の毒だが、元々この指輪はだまし取られたものなのだから、返してもらっても悪くはないだろう。

「ありがとう、ルクス。大切にしますね」

「それは何よりだ」

 よく分からない相手ではあるけれども、彼なりに思ってくれているのだろう。

 とはいえ、素直にその好意を受け入れるのは、まだ抵抗があった。

 人だったら良かったのに。

 巨大化したゴキブリの姿を思い出しそうになって、エレナはあわてて頭からその想像を振り払った。