「それに、ミリアのことだが」と、ルクスは話を続けた。「公爵の娘のミリアだけはまだ赤ん坊で殺されることはなかったが、城から落ちのびさせた家来が金に目がくらんで奴隷として売り飛ばそうとしたのだ。伯爵はそれを知り、幼いミリアを保護した。だが、子供の身分を明らかにしてしまえばサンペール王家に狙われる。だから伯爵は使用人の娘として迎え入れたというわけだ」

「それは知りませんでした」

「おまえが生まれる前のことだからな。おまえが生まれ、侍女として姉妹のように育てていた伯爵夫妻の気持ちに嘘偽りはなかったと言うことさ。おまえが契約通りに王家に嫁いだときには、晴れてミリアを伯爵家の養女として家名を復興させようと考えていたのだ」

 ああ、いかにも父らしい配慮だ。

 エレナは涙を流していた。

 父の名誉は守られたのだ。

「いいお話を聞かせてくださってありがとうございました」

「ミリアを恨まないのか?」

「いえ、お父様の潔白が分かればそれでいいのです。天国の母と仲睦まじく暮らしていることでしょうから」

 そして、エレナは手を合わせた。

「今はただ祈るだけです」

「親孝行だな」

「これがわたくしの特殊能力なのですか?」

「さあな」

 ルクスは一人、先に歩き出す。

 エレナはその黒光りするマントの背中を追った。