目を開けると真っ暗だった。

 真夜中に目覚めたときのような感覚だが、少しも目が慣れてこない。

 いつまでも闇のままだ。

 ただ、体に痛みなどはないし、気分も悪くはない。

 エレナは身を起こしてみた。

 少しはまわりの気配くらい分かるかと思ったが、やはり何も見えない。

 目がおかしくなったのだろうかと手で瞼を押さえてみる。

 指の温かさを感じる。

 そういえば、縄で縛られていたはずなのに、手を動かせる。

 エレナは少しずつ記憶をたどっていった。

 たしか地下牢に閉じこめられて火事に巻きこまれたんだった。

 自分はどうなったのだろうか。

 ここはどこなのだろう。

「誰か……いませんか?」

 人を呼びたい気持ちと、また牢屋番のような悪人が来ても困るという不安が重なって、大きな声が出ない。

 闇からは何も返ってこない。

 立ち上がってみる。

 手探りでまわりの様子を知ろうとしても、何も触れる物がない。

 一歩足を出してみる。

 床なのか地面なのかは分からないが、しっかりとした固い土台で、穴や障害物のようなものはないようだ。

 エレナは手を突き出し、摺り足で少しずつ移動してみた。

 何も見えないし、なんの気配もない。

 完全な闇だ。

「誰か。誰かいませんか!」

 今度は思いきり大きな声で叫んでみた。

 しかし、その声も闇に吸い込まれるように消えてしまう。

 のどが痛くなるほどの大声を出しているというのに、反響どころか、自分の声が自分の耳にすら届かないうちにすうっと消えてしまうのだ。

 体が急に震え出し、鳥肌が立つ。

 ここはいったいどこなのでしょう。

 何もない場所。

 完全な虚無。

 誰からも相手にされず、一切の感覚がない場所。

 ああ、もしやこれが地獄というものなのでしょうか。

 この状態がずっと続くのでしょうか。

 これならいっそ、炎で焼かれたり、串で刺されたり、猛獣に噛まれたりといった苦しみをあたえられる方がまだましに思えてくる。

「誰か! 誰もいないのですか!」

 返事はない。

 エレナは周囲を探るのをやめてその場にしゃがみ込んだ。

 地面はある。

 ただ、冷たくも暖かくもない柔らかくもなくなめらかでもなく、かといって、ごつごつもざらざらもしていない。

 落ちたり崩れたりはしなくても、地面と呼んでよいのかすら分からない、なんとも不思議な場所だった。

 もしかしたら、さっきから歩いているようなつもりだったけれども、一歩も動いていないのかもしれない。

 エレナは祈りを唱えた。

「ああ、神よ。わたくしは地獄へ落ちようとも、父はなにとぞ天へお召しください。亡き母とともに仲睦まじく平穏に暮らせるようにお取りはからいくださいませ。そのためなら、わたくしはどうなってもかまいません。この場で永遠の時を過ごせとおっっしゃるのであれば、それを受け入れます」

 父と母にはこのような場所にいて欲しくはない。

 エレナはもう一度同じ祈りを唱えた。