お城に到着したのは暗くなってからだった。

 荷車から降ろされたエレナは衛兵に引きずられながら城館へ入った。

 ミリアが命じて縄が解かれる。

 棺におさめられた父と対面したときには、もう涙はすっかり涸れてしまっていた。

 お父様。

 もうしわけありません。

 婚約どころか罪人として戻って参りました。

 それに、わたくしがこの手でお父様に毒を飲ませていたなんて。

 わたくしもすぐに後を追いますから、先に天国でお母様と一緒になっていてください。

 ああ、でも、わたくしはご一緒できませんね。

 わたくしの行き先は地獄ですものね。

 エレナにとって、棺の中の父が静かな笑みを浮かべていたのだけは幸いであった。

 伯爵家代々の墓地はお城の地下にある。

 暗い階段に松明がたかれ、使用人の男たちが棺を運びおろした。

 城付の司祭によって簡単な儀式が行われ、埋葬が終わる。

 司祭たちが階段を上がっていく。

 ミリアは衛兵にエレナをまた縛るように命じた。

「この女を地下牢へ閉じこめておきなさい」

 地下墓所の奥には遠い昔に使われていた地下牢がある。

 もちろん、エレナはそんなところへ行ったことはなかったし、どんなところか想像もつかなかった。

 松明を掲げた衛兵に先導されながらミリアも一緒に地下牢へ向かう。

 カビと腐臭の混じったような空気が固まったように動かない。

「ここでわたくしを殺すのですか」

 地下洞窟に虚しく響くエレナの言葉にミリアは静かに答えた。

「殺しはしません。ただ閉じ込めておくだけです。それからあなたがどうなるのかは私には関係のないことです」

 そして鼻で笑いながら肩をすくめた。

「私の手はいつでも綺麗ですから」

 暗闇の中に、松明に照らされた鉄格子が浮かび上がる。

 その奥には白骨化した死体が転がっていた。

 それを見ても不思議と恐怖心はわいてこなかった。

 もはや抵抗する気力も、生き抜こうとする希望も無くなっていた。

 鉄格子の鍵は錆びついているようで、衛兵が岩でたたきつけて壊した。

「別の鍵を持ってきなさい」

 ミリアの命令で衛兵が一人地上へ駆け戻っていく。

 扉を開けるとキイッと嫌な音が地下の暗闇に広がる。

 エレナは衛兵に押し込まれる前に自分から中に入った。

 新しい錠前を持って戻ってきた衛兵が派手に金属の音を鳴らしながら扉を閉める。

 鉄格子の向こうでみながエレナを哀れみの目で見ている。

「おまえたち」と、ミリアは棺を運んだ男二人を呼んだ。

「へい、なんでしょうか」

「おまえたちは松明を絶やさないようにここで見張りをしなさい」

「え、こんなところでですかい?」

「最期まで見届けるのですよ。いいですね」

 不満そうな顔をしつつ、衛兵たちににらみつけられて男たちは肩をすくめるだけだった。

「では、これで本当に終わりね。さようなら、お馬鹿さん」

 ミリアは衛兵たちを引き連れて高笑いを残しながら去っていった。