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 王宮の裏口に引き出されたエレナに用意されていたのは干し草が積まれた荷車だった。

 衛兵達は縄で縛られたエレナの体と脚を担ぎ上げて、干し草の上に放り投げた。

 荷車に馬がつながれ、すぐに動き出す。

 また酔いませんように。

 エレナは干し草の上で横になりながら祈った。

 青い空を見上げながら裏門から出て、いったん王宮の外側をぐるりと回ったところで、表門のそばまでやってきた。

 ここに来たときはあの門をくぐったのに、裏口から追い出されるなんて。

 荷車の上で体を起こしながらエレナは様子を眺めていた。

 壮麗なラッパが吹かれ、表門から王室騎兵隊に護衛された四頭立ての四輪馬車が颯爽と姿を現す。

 車輪が軽やかなリズムを奏でながら馬車が近づいてくる。

 荷車の横で止まると、窓からミリアが顔を出した。

「あらまあ、お似合いね。どちらに乗ってもどうせ酔うでしょうから、あなたに馬車は無用の長物でしょう。荷馬車なら、吐きたくなったら、いつでも吐けて都合がいいでしょうね」

 そう言うと、ミリアは御者に命じた。

「急ぎなさい。夕刻までに伯爵領へ到着するのですよ」

「かしこまりました」

 馬車の隊列に続いて荷車も動き出す。

 かなりの勢いで転げ落ちそうなほどに跳ねる。

 エレナはすぐに酔ってしまった。

 しかし、止まってはくれないし、後ろ手に縛られていては、荷車のふちにつかまることもできず、外に顔を出すこともできなかった。

 どうにもならず、横になったまま干し草の上に吐いてしまった。

 干し草に顔をこすりつけて吐瀉物をぬぐう。

 涙で顔がぐしゃぐしゃになる。

 ふと見ると、プリーツに隠れていたゴキブリが表に出てきていた。

「隠れていなさい。どこかへ飛んでいってはいけませんよ」

 言葉が通じたというわけではないだろうが、ゴキブリは触角を揺らしながらもう一度ドレスに潜り込んだ。

 エレナはもうろうとした意識の中でその様子を眺めてから、あまりの気持ち悪さに耐えきれなくなって気絶してしまった。