かつてラベッラ公爵家とシュクルテル伯爵家はルミネオン王国の隣国サンペール王国の臣下だった。
そして、公爵家と伯爵家は長い間盟友として良好な関係を築いていた。
そんなとき、当時のサンペール国王が王宮の建築費を捻出するために、民衆に新たな税を課そうとした。
ラベッラ公爵は王室の放漫財政により民衆を苦しめることは認められないと抗議し、諸侯にも賛同を求めた。
伯爵家も賛成の立場を表明し、一時は王家も増税を撤回する流れになりかけていた。
しかし、諸侯会議を招集するという名目で貴族達を王都に呼び寄せた王家は、彼らを幽閉し、増税への賛同を迫ったのだった。
陰謀を察知していたラベッラ公爵は招集に応じず、同様に所領に籠城した伯爵に呼びかけて反旗を翻し王都へ進軍しようとしたが、伯爵は援軍を送ることはなく、サンペール王家の軍勢に破られて所領を剥奪され、公爵家は断絶となったという。
そして、孤立したシュクルテル伯爵はルミネオン王国に助けを求め、新たに家臣となることを誓ったのだった。
「民衆のために立ち上がったわが父をおまえの父は裏切ったのよ」
ミリアは拳を振るわせながらエレナをにらみつけていた。
「父は討ち死に。母やまだ子供だった私たちは城を追い出され、流浪の生活を送るうちに散り散りになったのです。私は家族の仇を討つため、伯爵家の召使いとなって、いつかこの日が来ることを待っていたのよ」
それはエレナのまったく知らない話だった。
「サンペールを追われたおまえの父は自分だけ庇護を受けるために、忠誠のあかしとして、生まれてくる子供をルミネオン王家に人質に差し出すという契約を結んだそうよ。それがこのたびの婚約の真相だったというわけね」
そんないきさつがあったことをエレナは初めて知った。
自分は家を守るための道具に過ぎなかったなんて。
がっくりとうなだれたエレナに罵声が浴びせられる。
「盟友を裏切り、自分さえ助かればよいと逃亡した卑怯者。それがおまえの父シュクルテル伯爵よ。その娘であるおまえの運命は生まれたときから裏切りの汚い血にまみれていたってわけね」
ミリアが口に手を当てて笑い出す。
「ホホホ、むしろ、カエルと婚約する方がましだったんじゃないかしら? そうやって這いつくばっているおまえにはとてもお似合いよ」
エレナも顔を上げて言い返した。
「あなたもそれでいいのですか? これがあなたの望みなのですか? あなたにしても、結婚とは名ばかりで、あの子のお守りをするだけじゃないの。それであなたは幸せになれるというの? 結局は貴族の身分を得るための政略結婚でしょうに」
うなずきながら聞いていたミリアが不敵な笑みを浮かべる。
「そうかもしれませんけど、ウェイン第一王子がいなくなればクラクス王子だって世継ぎになれるんじゃないかしらね。そうすれば貴族の身分どころか王国そのものが手に入るわ」
「第二王子もいるんでしょう? クラクス王子は世継ぎにはなれないでしょうに」
だからこそ、エレナも婚約を受け入れられなかったのだ。
しかし、ミリアは落ち着いた表情で笑みを浮かべたままだ。
「大丈夫ですよ。上の四人がいなくなれば順番が来るのですから」
「そんな都合の良い話があるわけないでしょう」
「そうなるように仕向ければいいのですよ」
仕向けるって、いったい……。
心の奥がざらつく。
何かが引っかかって嫌な音を立てている。
鼓動が早くなる。
そして、公爵家と伯爵家は長い間盟友として良好な関係を築いていた。
そんなとき、当時のサンペール国王が王宮の建築費を捻出するために、民衆に新たな税を課そうとした。
ラベッラ公爵は王室の放漫財政により民衆を苦しめることは認められないと抗議し、諸侯にも賛同を求めた。
伯爵家も賛成の立場を表明し、一時は王家も増税を撤回する流れになりかけていた。
しかし、諸侯会議を招集するという名目で貴族達を王都に呼び寄せた王家は、彼らを幽閉し、増税への賛同を迫ったのだった。
陰謀を察知していたラベッラ公爵は招集に応じず、同様に所領に籠城した伯爵に呼びかけて反旗を翻し王都へ進軍しようとしたが、伯爵は援軍を送ることはなく、サンペール王家の軍勢に破られて所領を剥奪され、公爵家は断絶となったという。
そして、孤立したシュクルテル伯爵はルミネオン王国に助けを求め、新たに家臣となることを誓ったのだった。
「民衆のために立ち上がったわが父をおまえの父は裏切ったのよ」
ミリアは拳を振るわせながらエレナをにらみつけていた。
「父は討ち死に。母やまだ子供だった私たちは城を追い出され、流浪の生活を送るうちに散り散りになったのです。私は家族の仇を討つため、伯爵家の召使いとなって、いつかこの日が来ることを待っていたのよ」
それはエレナのまったく知らない話だった。
「サンペールを追われたおまえの父は自分だけ庇護を受けるために、忠誠のあかしとして、生まれてくる子供をルミネオン王家に人質に差し出すという契約を結んだそうよ。それがこのたびの婚約の真相だったというわけね」
そんないきさつがあったことをエレナは初めて知った。
自分は家を守るための道具に過ぎなかったなんて。
がっくりとうなだれたエレナに罵声が浴びせられる。
「盟友を裏切り、自分さえ助かればよいと逃亡した卑怯者。それがおまえの父シュクルテル伯爵よ。その娘であるおまえの運命は生まれたときから裏切りの汚い血にまみれていたってわけね」
ミリアが口に手を当てて笑い出す。
「ホホホ、むしろ、カエルと婚約する方がましだったんじゃないかしら? そうやって這いつくばっているおまえにはとてもお似合いよ」
エレナも顔を上げて言い返した。
「あなたもそれでいいのですか? これがあなたの望みなのですか? あなたにしても、結婚とは名ばかりで、あの子のお守りをするだけじゃないの。それであなたは幸せになれるというの? 結局は貴族の身分を得るための政略結婚でしょうに」
うなずきながら聞いていたミリアが不敵な笑みを浮かべる。
「そうかもしれませんけど、ウェイン第一王子がいなくなればクラクス王子だって世継ぎになれるんじゃないかしらね。そうすれば貴族の身分どころか王国そのものが手に入るわ」
「第二王子もいるんでしょう? クラクス王子は世継ぎにはなれないでしょうに」
だからこそ、エレナも婚約を受け入れられなかったのだ。
しかし、ミリアは落ち着いた表情で笑みを浮かべたままだ。
「大丈夫ですよ。上の四人がいなくなれば順番が来るのですから」
「そんな都合の良い話があるわけないでしょう」
「そうなるように仕向ければいいのですよ」
仕向けるって、いったい……。
心の奥がざらつく。
何かが引っかかって嫌な音を立てている。
鼓動が早くなる。