重い扉を押し開けながら制服姿の衛兵が二人入ってくる。

 一人がエレナの足枷を外し、もう一人がかわりに縄で後ろ手に縛る。

「来い。王子妃殿下がお呼びだ」

 無理矢理引っ張り上げようとする衛兵達にエレナは言った。

「自分で行けます」

「うるさい。口答えするな」

 両側から腕を抱えられて、引きずられるようにしながら連れていかれたのは王宮の小広間だった。

 壇上中央の椅子に、豪華な宮廷服を着たミリアが座っている。

 膝の上にはクラクス王子がのっていて、彼女の胸にもたれながら指をしゃぶっている。

「ご苦労様です。放してやりなさい」

 ミリアの命令に従って衛兵達がエレナを床に放り投げた。

「何をするのよ、もう、痛いじゃないの」

 壇上からミリアの高笑いが聞こえてくる。

「ホッホッホ、ひどい姿ね、エレナ。貴族のプライドはどこへ行ったのですか。もっともすでにあなたは身分を剥奪された罪人ですけどね」

 エレナは体を起こして顔を上げた。

「ミリア、あなたはなぜこのようなことを」

「罪人よ、気安くわたくしの名を呼ぶでない。今のわたくしはクラクス王子妃ラベッラ公爵夫人です」

 王子妃?

「あなたはその子供と結婚したというのですか」

「ええ、ですから、今はあなたとは立場が逆転したのですよ」

 ミリアの態度は威厳のあるものだったが、それは気品というよりは高慢さの裏返しのような雰囲気がにじみ出していた。

 ミリアは衛兵達に命じて人払いをさせた。

 クラクス王子も世話係に預けて部屋から去らせる。

 二人きりになった小広間で、ミリアが口の端に笑みを浮かべて壇上からエレナを見下ろしていた。

「ザマアですわね、エレナ」

「ざ、ザマア……ですって?」

「長年の恨み。その仕返しです」

「あなたが言っていた卑劣な陰謀とは何なのですか。いったい、わが伯爵家が何をしたというのですか」

「ちょうどあなたが生まれた頃のことです」と、ミリアが椅子から立ち上がって語り始めた。「わが公爵家は正義のために立ち上がったのです」